「ひとり情シス」の本当のところ

第9回:「社長=IT音痴」は昔の話?--社長年齢の変化(前編)

清水博 (デル)

2018-07-25 06:45

社長はITが分からない?

 「ひとり情シス」や「ゼロ情シス」が予想以上に進んでいることに驚いた人も少なくないでしょう。そこに至るまでの背景にはさまざまな理由があると思いますが、その要因の一つとして社長の年齢による変化があるといえます。今回から2回にわたって考察します。

 これまで一般論として、経営者である社長はITが苦手な存在とされてきました。電子メールを印刷してもらって手書きで指示や返事を書き込み、アシスタントがそれを入力して返信するという光景が多く見られました。ある意味、一目でエグゼクティブと分かるシーンでした。

社長が過ごした青春時代

 確かに、長い間、「社長=IT音痴」という構図で語られてきました。しかし、どこかのタイミングで、社長が積極的にIT活用を始めるときが来るのではないかと考えていました。帝国データバンクが2018年1月末に発表した「全国社長分析」によると、全国の社長の平均年齢は59.5歳。過去最高を更新したそうですが、ITの側面で見ると別の意味があります。

 59.5歳というと1959年(昭和34年)生まれです。この年代が成人する1980年前後には、Digital Equipment Corporation(DEC)のミニコンピュータ「PDP-11」シリーズが、多くの大学の工学系学部に導入されていました。マルチチップモジュール化したプロセッサをはじめ、革新的な技術を多く盛り込み、今で言うと破壊的イノベーションを実現した、憧れのブランドでした。大学ではコンピュータの授業も始まりつつあり、順番を待って(時には徹夜までして)コンピュータの端末を奪い合っていました。

 さらに、裕福な学生は、日立製作所が発売したパソコン(当時はマイコンという名称が一般的)「ベーシックマスターJr.」を購入して、コンピュータプログラミングが自宅でできるという、当時としては夢のような環境がありました。

 つまり、1959年生まれは20歳前後の学生時代に、それまでと全く異なるコンピュータ体験をしています。そして、社会人2年目に当たる1982年には、やがて国内市場を席巻するNECの「PC-9800」シリーズが発売されました。なお、NECは現在、NECパーソナルコンピュータとして分社化されています。

 PC-9800は当時の日本のIT市場において絶大な影響力を持っていました。いずれ社長になる青年たちは、こうした時代の変遷をリアルタイムに見てきたわけです。ノートPCや携帯情報端末(PDA)、スマートフォンなど、次々と登場するテクノロジを経験していくことで、自然とITリテラシーが高まってきたといえます。この世代以降は何も抵抗なくITを使いこなせている人がほとんどではないでしょうか。

社長はITが分かる?

 こうした背景から、「社長はITが分からない」から「社長はITが分かる」に急激に変化しています。顧客企業の社長と話をすると、ITの深い知識を持ち、製品やサービスを吟味する目も厳しいです。実際、デルの日本法人が実施した調査結果によると、従業員数100~300人未満の規模では、72.5%の企業で社長がITに関する予算承認をしている実態が判明しています。その割合は近年急速に増加しています。

 そうなると、もう表敬訪問だけで社長を訪ねることはありません。将来のIT戦略の立案や策定などに関して、最終的な意思決定者としてビジョンを明確に持っています。こうした状況では、たとえひとり情シスという立場であっても、社長からの強力な後押しなどを受けて、社内ITの運用や統制を円滑に進められるようになっています。

 ひとり情シスが活躍する背景には、年齢とは関係なく、ITが分かる社長の存在が大きくなっています。次回は、当社で実施した社長年齢に関する調査をもとに、さらに深掘りしていきます。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
デル 執行役員 広域営業統括本部長
横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のディレクターを歴任する。

2015年にデルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在従業員100~1000人までの大企業・中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

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