SIMフリーの台頭、5Gの実装、IoTなど新しいビジネスのチャンスーー通信キャリアを取り巻く環境は大きく変化している。国内最大手のNTTドコモは「SAP HANA」とBIの「Tableau」で高速なデータ可視化基盤を構築、これまで専門チームに依頼して2週間待つしかなかったレポートが3秒で得られるようになった。データの分析ではなくデータの活用へと意識改革が進んでいるという。
NTTドコモがSAP HANAを採用した背景には、同社が掲げる中期事業計画でデジタルマーケティングの強化がある。約7300万人の顧客を有するNTTドコモは、2020年までの中期戦略「beyond宣言」で顧客への価値・感動にフォーカスしているのだ。
「お客さまの理解を深め、適切なオファーをするーーそのためにはデータを集めて分析し、活用しなければならない」とNTTドコモ 情報システム部で情報戦略担当課長(当時)を務める竹島哲也氏(現:デジタルマーケティング推進部デジタルマーケティング推進担当課長)、「しかし、これまでは情報活用が浸透しておらず、OLAP的な情報系システムはあっても、本当に各部署が必要としているデータはすぐに得られない、あるいは情報系分析に30秒かかるなどの課題があった」と振り返る。
分析結果が遅いとせっかくのデータも使いたくなくなり、データ抽出してExcelで加工しようとする。だがそうなると深堀りできない。ドコモショップの販売員や法人営業がすぐにデータにアクセスし、自分でデータを活用するという状況を産む必要があった。
「データはある。データに基づくオペレーションをさまざまな組織でやってもらいたい」(竹島氏)ーーそこで、迅速に分析する基盤として選んだのがSAP HANAだ。顧客データ、契約データなどフロント業務だけでもデータは膨大な量になる。データベースをSAP HANAにすることでいかにレスポンスを短縮できるかという点に期待した。設計目標は、3秒で情報検索の結果が得られること。BIツールは「Tableau」を選んだ。データ活用の裾野を広げるにあたって、ユーザーインターフェイスが良く使いやすいものを検討した結果だという。
複数製品の候補があったというが、決め手はスケールアウトだ。「スピードという点では他にもインメモリのオプションがある。HANAは、データ量が増えてもノードを増やせばレスポンスを維持できるという点が卓越していると感じた」(竹島氏)こうやって構築したのは、実に18TBのデータベースだ。SAPによると世界最大級であり、単一企業としてはアジア最大という。10台のサーバで構成されるスケールアウト手法をとった。
左からNTTドコモの白川貴久子氏、竹島哲也氏、情報システム部 情報戦略担当 主査(当時)の寒河江政史氏(現:情報システム部 IT基盤戦略担当 主査)
規模だけでなく、実装までのスピードも目を見張るものがある。導入を決定したのが2016年6月、同年10月に設計に入り、試験を経て2017年3月には運用にこぎつけた。実に8ヶ月での完了となる。システム構築を手がけたのは、NTTデータだ。
この可視化基盤をベースとしたダッシュボードとセルフサービス型BIと2種類のソリューションを構築し、各部署に展開している。設計目標の3秒に対し、現在8割で3秒内を実現しているという。
1年を経て、特にユーザーの評価が高いというのがセルフBIだ。「これまで自分たちで情報にアクセスできなかったのが、知りたい・見たいデータにすぐにアクセスできる」と竹島氏、ダッシュボードについても、「これまでデータ活用と関係がなかった現場が、これを見れば業務の内容がわかると好評だ」という。スタート当初は30以下だったダッシュボードの数が、1年で100ぐらいに増えているという。
