「技術革新による“データ集中”が社会にどんな影響をもたらすか、注視すべきだ」――。こう語るのは、日本のICT業界のご意見番であるインターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長だ。同氏は何を憂慮しているのか。
技術革新が社会を変えていくプロセスは始まったばかり
講演を行うIIJの鈴木幸一会長
鈴木氏の冒頭の発言は、IIJが先頃開いた記者懇談会での講演のひとコマである。ここ数年、毎年恒例の講演として、1992年にIIJを創業し、日本にインターネットを導いた立て役者の一人である同氏が業界を俯瞰して語るとあって、2018年も多くのメディア関係者が耳を傾けた。
同氏はまず最近のICTの動向について、「IIJを立ち上げ、インターネットに関わって26年になるが、最近の通信トラフィックの急増ぶりには目を見張るばかりだ。昨年末から今年半ばまでの6か月間だけで5割ほど増えている。データ量の急増に加えて、さまざまな種類のデータが利用されるようになってきたのが、大きな要因だ。とりわけ、動画の利用の増加が拍車をかけている」との見方を示した。
ただし、「インターネットをはじめとした技術革新が社会を変えていくということからすると、そのプロセスはまだ始まったばかりだ。モバイルやクラウド、モノのインターネット(IoT)やビッグデータ分析、そして人工知能(AI)がようやく使えるレベルになってきて、これから社会を変えていく技術要素がここにきて出揃いつつあるというのが、私の捉え方だ」とも。「プロセスはまだ始まったばかり」との言葉が印象に残った。
AIについての言及も興味深かった。
「私に言わせればAIは“推測統計”。過去のデータによって将来を推測するということ。例えば、人間の行動のほとんどは、その人の行動に関する過去の緻密なデータが蓄積されていれば、それを分析することによって、その人がこの場合はこんな行動をすると瞬時に、しかも正確に推測できる。ただし重要なのは、その統計手法もさることながら、プロセッシングやネットワークなどのインフラがリアルタイムなデータ処理を行えるだけの能力を保持しているかどうかだ」