「ロボットがあなたの職場にやってきます」と言われたとき、どのようなことを考えるだろうか。日々積み重なる雑用を代わりに素早くこなしてくれるロボットを考えるかもしれない。もしくは、工場勤務の人は「もうロボットがいっぱいいるよ」と言うかもしれないかもしれない。あるいは、ロボットによって自分の職を奪われるのではないかと考える人もいるかもしれない。
実は、業務にコミュニケーションロボットを導入するのが、生産性や創造性を高めるのに有効ではないかと考えている。コミュニケーションロボットが業務をどのように変えていくかについて述べていくことにしよう。
コミュニケーションロボットの市場と期待
コミュニケーションロボットとは、言語や身体を使って人とやり取りをすることができるロボットを指す。日本では2014年に「Pepper」が登場して以来、注目されるようになってきた。このようなコミュニケーションロボットは、接客や受付のサポートだけでなく、介護施設での新たなコミュニケーションツールとして、英会話など学習のためのツールとして、または個人や家庭での娯楽として、導入されたり実験が進められたりしている。
矢野経済研究所の調査によれば、2015年度の国内コミュニケーションロボットの市場規模は23億8500万円とされており、日本では特に市場が広がっていることが分かる。2020年度には87億4000万円規模になると試算されている。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、交通機関や各種施設での観光案内を目的に導入の機運が高まると見込まれているためである。
もともとコミュニケーションロボットは、学術性や趣味性の強いものが中心であり、実用目的のものはわずかだった。Pepperの登場以降、世間でのコミュニケーションロボットの関心が高まると同時に、音声認識や顔認識などの認識技術をはじめとする人工知能(AI)・機械学習技術が進展したのもあり、法人・個人向けともに実用化が模索されだしたところである。
コミュニケーションロボットの需要は、Google HomeやAmazon Echoなどのスマートスピーカーの登場によって、ますます顕在化されたと考える。音声や会話でコンピュータとやり取りをすることが一般に浸透しだしたのだ。そうなれば、単なる言葉だけでなく、動作や表情といった言語以外の対話方法を組み合わせたロボットが活躍する場も広がるだろう
コミュニケーションロボットやスマートスピーカーもそうであるが、音声インターフェースは、われわれの暮らしを大きく変える潜在的な力を持っている。
これまで、インターネットを使って何か調べ物や買い物をしたいと思ったときは、PCやタブレット、スマートフォンなどのデバイスを自分の手で操作しなければならなかった。その作業のために、実世界の行動を一旦中断し、仮想世界をのぞきに行く必要があった。
コミュニケーションロボットやスマートスピーカーでは、実世界の行動を中断することをなく、話し掛ければいいだけだ。服を着替えながらでもいい、朝ごはんを作りながらでもいい。別の作業に集中しつつ、操作ができればいいのだ
われわれは実世界で生産活動を続けている。その活動を止めて、仮想世界をのぞくこと自体に大きな壁があったのだ。コミュニケーションロボットによって、それが一歩、実世界に近づき、仮想世界がより身近になるわけだ。長年言われ続けてきたデジタルデバイドの問題も解決するだろう。その観点からも、コミュニケーションロボットが教育の現場や介護の現場で導入されつつあることに納得できる。
それ以上に、コミュニケーションロボットは、われわれの対話自体を円滑にしてくれる機能も持ちつつある。介護の現場での導入事例において、介護施設職員と心を開かなかった人が、コミュニケーションロボットと触れ合うことによって、気分を落ち着かせ、表情が明るくなり、職員と話せるようになったということを聞く。
コミュニケーションロボットは単に人間の代わりに話し相手をしてくれる、コマンドを受け付けてくれる存在ではなく、新たなコミュニケーションの形を提供してくれているものと位置付けられないだろうか。人間同士の会話を考えると、時と場合に応じて、それぞれの人の損得勘定が働いたり裏切ったり、感情の起伏でなかなかうまくいかなったりすることが少なからずある。コミュニケーションロボットは、人間の負の部分が少ない分、人間より対話能力が大幅に低くても、新たな役割を果たしてくれることがあるのだ。