判断基準はデータの時間軸
これらの複雑に絡み合った3つの要素を考慮しつつ、どういったワークフローやデータ様式をパブリッククラウドで処理すべきかが重要となります。その判断基準はデータの時間軸、すなわちデータ処理に掛けられる時間と処理量の関係で決まるのではないでしょうか。
パブリッククラウドの利用メリットは、オンデマンドによるリソースの迅速かつ柔軟な拡張や、IT資産・電力・施設の費用を従量課金で支払い、コストの効率化を図れることです。パブリッククラウドへ切り出しやすいと判断できるワークフローとしては、定期的に変化が求められるシステム、素早いデータ共有環境の構築、プロジェクトとして一時的なニーズの追加、拡張頻度の読めないビッグデータ分析のデータプール、将来のための検証目的などが挙げられます。これらは全て即応性を求められるか、投資には不安な要素になります。
これとは逆に、データアーカイブなどのように長期的、計画的な用途においては、パブリッククラウドのコストメリットが出にくいといえます。特にデータの容量や件数によって転送時間、拡張性、利用料が問題になる場合は、オンプレミス側の設計から見直す必要があるでしょう。
ここで、データ量の増加に対応するために求められるのが、「コンピュート(データ処理)」「ネットワーク(情報網)」「ストレージ(データ保全)」におけるストレージの柔軟性ではないでしょうか。ハイブリッド化とは、データの処理・保存する場所の配置転換とも言い換えられます。
従って、データが求める即応性とデータの多様性に対応しながらストレージの特性に合わせた再配置を検討することが必要になります。増加しているのが非構造化データであるなら、それを扱うことが得意なストレージ、つまりオブジェクトストレージを導入することが効果的でしょう。リアルタイム処理には不向きですが、大きなストレージプールにメタデータとともにデータをためて処理するのを得意とします。拡張性や可用性にも優れた高効率ストレージです。プライベートクラウド環境にオブジェクトストレージを導入し、デジタル資産管理を効率化することをお勧めします。なぜ非構造化データにはオブジェクトストレージが適しているのかについては、そのコスト効率の良さも含めて次回で詳しく解説します。
ここで、データの再配置を考える上で、重要なストレージ特性の一つとなる「アクティブアーカイブ」について定義しておきます。メインストリームのストレージに比べるとアクセス頻度が少ないが、読み出しされることもしばしばあるという、ホットでもコールドでもない「ウォームデータ」を扱うのがアクティブアーカイブです。テープバックアップなどは、ディープアーカイブまたはコールドデータとされ、ほとんど読み出しされることがないデータです。
例えば、インターネット上のニュースは、時間の経過とともにホットからウォームへと移行しますが、後々の検索でもストレスなく読み出しされることが必要です。こういった分野がアクティブアーカイブです。メール、写真、動画などの非構造化データは、このアクティブアーカイブ分野に属するデータといえるでしょう。クラウドサービスプロバイダーのデータセンターにあるストレージの約半分が既に非構造化データで埋められているという調査結果があります。2020年には、アクティブアーカイブ分野でのオブジェクトストレージ利用が90%を越えるとの調査結果も示されています。これをプライベートクラウドでも使わない手はありません。
ただ、メインストリームストレージを拡張していてはコスト高になりがちです。「3-2-1ルール(注)」と呼ばれるバックアップ慣例に忠実に従うのも、ストレージへの投資や運用面で負担が大きいのです。システムでは、ワークフローに沿ったタスクをこなしながら必ず冗長性を持たせます。これがシステム構成や運用を複雑にしている要因でもあり、オンプレミスでの運用の負担になっています。オブジェクトストレージは、拡張性、可用性、データ堅牢性に加え、非常に安い運用コストでオンプレミスの悩みを解決してくれるストレージシステムです。
(注)3-2-1ルール:3つ以上のコピーの作成、2種類のメディアの保存、1カ所の遠隔保管を実施するバックアップルール
ハイブリッドといっても、シンプルなワークフローが基本です。IT資産管理として統一したルールの徹底が重要となります。メインストリームストレージ、アクティブアーカイブ、パブリッククラウド間のデータの流れを管理し、データティアリングの基準設定からデータの配置、スムーズなアクセスを可能にするデジタルアセットマネジメント(DAM)ツールが有効です。
ユーザーは、データがどこに配置されているかを気にしなくていいわけですし、IT管理者がデータ配置を管理し続けるのも現実的ではありません。ソリューションプロバイダーやシステムインテグレーターが自社のサービスを特徴付けるツールとして強調し、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)がマーケット別や用途別にいろいろなツールを提供しているのも、この資産管理のためです。
増加を続けるデジタルデータに対応しながらTCO改善を求められるという無限ループにどう対応するか。インターネット時代に現れたオブジェクトストレージの活用が必須となります。
- 山本慎一
- HGSTジャパン ジャパンセールスディレクター
- データストレージ技術とソリューションを提供するWestern Digitalにおいて、オブジェクトストレージを中心としたデータセンターソリューションのビジネス開発を主に日本で推進。IBM、日立、Western Digitalなど、30年以上にわたりストレージ業界に従事。コンシューマー製品からエンタープライズソリューションまで、幅広い分野において製品開発、ビジネス開発、マーケテイングなどの経験を持つ。