「人材の確保に真剣に取り組んでいる企業ほど事業がうまくいっていない。理由は『こうあらねばならない』という“IT人材の呪縛”にある」――。8月31日に開催された「ガートナー ITソーシング、プロキュアメント&アセット・マネジメントサミット2018」のオープニング基調講演に、バイスプレジデント兼最上級アナリストを務める足立祐子氏が登壇、「IT人材の呪縛を解き放て」と題して講演した。
IT人材についての呪縛の例には、「デジタル変革の成功は人材の確保にかかっている」「内製力の不足がデジタル変革の進展を阻んでいる」「良い人材を確保するためには海外並みの給与を提示すべきである」といったものがある。講演で足立氏は、IT人材への“こだわり”が呪縛となる理由と、IT人材問題の克服に向けた突破口、ITリーダーは何をすべきかについて説いた。
スポット型アウトソースで柔軟に人材を調達する時代

ガートナー ジャパンのリサーチ部門でバイスプレジデント兼最上級アナリストを務める足立祐子氏
足立氏によれば、IT業界は人材が不足している。新卒時にIT業界を選ぶ人は少ない。IT業界は日本のGDP(国内総生産)の6~7%を占めるが、新卒は2.4%しか来ない。政府は施策を打っているが、今後数年間は成果が表れない。ユーザー企業だけでなくITベンダーにも人が来ない。
中途採用も厳しいと足立氏は言う。国内IT人材の130~140万人に対し、転職市場に出てくる人材は10~15万人。潤沢に見えるが、IT業界は多重請け構造のため、エンジニアの多くは部分的な経験しか持たないからだ。細分化された小さな塊から必要なスキルを探すことになる。
人材の確保においてアウトソースは大きな部分を占めるが、従来のアウトソースは“会社 対 会社”の強固な委託関係だった。これが今変わろうとしていると足立氏は言う。選択肢が増えてきており、スポット調達のクラウドソーシングや大学/ベンチャーとの協業もある。豊富な経路から必要な人材を調達する時代になった。
人材のスポット調達は、雇い手と働き手の双方にとってメリットがあると足立氏は言う。雇い手からすれば、ずっと必要かどうか分からない技術を社員として抱えなくて済む。働き手から見ても、さまざまなプロジェクトで働ける。スポット調達は、働き方改革や副業などの潮流にも合う。スポット型の人材調達を支援する基盤も整いつつあるという。
また重要なポイントとして、文化の問題も解決しなければならないとも指摘する。「海外では、人材よりも文化が大きな障害となっている」(足立氏)。20人のIT部門に外部から20人のコンサルタントを追加した場合、組織の半分はスピード感や価値観が異なる。これではうまく管理できない。
業務部門のIT熟練度を高めよ、使いやすいテクノロジの採用も重要
人材解決の糸口として足立氏は、(1)従業員、(2)テクノロジ、(3)情報――の3つを挙げる。従業員(社員)の圧倒的多数はIT部門以外にいる。つまり、技術に明るい人が社内に大勢いれば、IT部門の業務は楽になる。ガートナーの調査によると、社内に技術に明るい人がいる会社は、イノベーションのスピードが2~3倍速い。
ガートナーは現在、「デジタル・デクステリティ」と呼ぶキーワードを提唱している。新しいITを使いこなす能力として、ITへの熟練度の高さを表す言葉だ。デジタル技術を使いこなせる人を育てていくことが大切という。
デジタル技術を使わない理由はさまざまだ。例えば、テクノロジの使い方を知らない人に使い方を教えている企業は50%未満しかない。「まずは全社教育が有効」と足立氏は言う。座学だけでなく、ワークショップなどの実践形式を含めた幾つかの教育パターンを用意するとよい。
デジタル・デクステリティを引き上げる早道は、「使いやすいテクノロジを導入すること」(足立氏)だ。チャットツールのLINEなどの、社員が日常的に使っているテクノロジが、使いやすいテクノロジだ。ツールそのものを採用できなくてもルック&フィールを似せることで使いやすくなる。
テクノロジを使いこなす意欲を醸成していくことも重要という。このための良い方法は、モデルになる人を作って波及的な効果を期待するというもの。足立氏は、西日本シティ銀行の事例を紹介。同行では、入行5年程度の中堅人材を1週間だけIT部門で働かせ、これが効果を上げている。現場に戻った中堅社員は、IT部門の理解者となって支援してくれるようになる。