経済産業省は9月7日、複雑化やブラックボックス化した企業のITシステムが「デジタル変革」を失敗させ、2025年から毎年12兆円の経済損失をもたらすとの報告書を公開した。同省はこの事態を「2025年の崖」と呼んでいる。
「2025年の崖」がもたらされる要因(出典:経済産業省)
報告書は、同省が5月に立ち上げた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」(座長:青山幹雄 南山大学理工学部ソフトウェア工学科教授)での4回の議論を取りまとめたもの。あらゆる産業でデジタル変革の試みや投資が進む一方、その多くが概念実証にとどまり、実際のビジネス変革につながっていないと指摘。その原因では、既存のITシステムの老朽化や複雑化、ブラックボックス化による限定的なデジタル技術の導入効果、また、既存システムの維持・保守に要するコストなどを挙げている。
同省では、これらの原因を今後も放置すればコストが増大化し、維持・保守人材の枯渇やセキュリティリスクの上昇を招くとも指摘する。研究会では、デジタル変革の実現の足かせとなっているとするITシステムの見直しについて、経営戦略や組織体制などの観点を交えた議論を行ったという。
デジタル変革を実現するシナリオ(出典:経済産業省)
報告書では、2020年までに企業がITシステムの刷新に関する経営判断を行い、2021~2025年に集中的な刷新作業を実施してブラックボックス化などの状況を解消すべきと提言する。これらの取り組みが実現すれば、2030年時点で実質GDP(国内総生産)を130兆円以上押し上げると予想する。同年時点における具体目標として、GDPに占めるIT投資額を現在の1.5倍に、IT産業の年平均成長率を2017年の1%から6%に、IT人材の平均年収を2017年の約600万円から米国並みの約1200万円に引き上げるなどとしている。