ユーザー体験(UX)の分類方法
ユーザー体験(UX)は、「予測的」「一時的」「エピソード的」「累積的」の4種類に分類できる。UXは商品の「利用中(一時的)」だけでなく、「利用前(予期的)」「利用後(エピソード的)」「利用全体(累積的)」までを含めて考慮しなければならない。詳しくは「UX白書」を参照してほしい。
これらの中では、利用前のUXを考察する過程が最も想像しづらいだろう。そこに「デザイン」の要素が加わるとさらに難しくなる。ただ、どのようなユーザーが、どのような状況・目的で商品を使い始めるのかといった部分は、その後のUXに大きな影響を及ぼすことになる。
この点において、デザインの余地が大きいのが「広告」である。広告は、対象とする商品の予期的UXを形作る役目を持つと同時に、「ユーザーに提示される一塊の情報」であるので、それ自体のUXも考えなければならない。ここからは広告にまつわるUXを考察する。
情報に触れさせる、触れてもらう
広告の主な目的は、(潜在的な)ユーザーに商品の情報、あるいは提供企業などの情報を触れさせ、直接的・間接的に購買につながる経路に誘導したり、好感を持ってもらったりすることである。
多くの場合、ユーザーが意図的に見ようと思っている他のコンテンツに伴って、あるいは他の行動中にその環境の一部として、ユーザーの意図によらず自然に(あるいは強制的に)目や耳に入る形で提示される。ユーザーが意図的に何かを探すために広告を見る場合もあるが、それはここでは置いておく。
もちろん広告に含まれる(ユーザーに伝えたい)内容の量にもいろいろとある。最もシンプルなのは、企業や商品の名称・ロゴなどを提示するタイプで、どこかで見覚えや聞き覚えがあるという状態にする効果がある。情報量を増やせば、より多くの印象を残したり、興味を持ってもらったりするようさまざまな工夫を凝らせる。視線誘導などのテクニックを使って、なるべく目に入りやすいようにする方法もある。
ユーザーにとっては意図せずに提示される情報であるため、こうした「印象付け」は諸刃の剣にもなり得る。つまり、「印象付け」の方向がプラスになるかマイナスになるかは紙一重なのである。広告が邪魔と思われれば、その商品に対する好感度が下がってしまう恐れがある。広告に含まれる内容は同じであっても、提示の仕方によって結果が大きく変わり得る。まさに、UXの観点から考えなけらばならないところである。
ユーザーに情報を「触れさせたい」のは提供側の都合である。あくまでユーザーに「(なるべく邪魔などはせずに)触れてもらう」というスタンスに立つ方が優れた体験をもたらし、結果的に提供側の得になることが多いはずだ。
広告提示の仕方
ウェブサイト上に表示される広告であれば、レイアウトをはじめとして動きを付けたり、インタラクティブな要素を入れたりできるため、自由度がとても高い。商品の印象付けのほか、詳細情報や購入ページに直接誘導することも可能だ。効果は高いがマイナスのリスクも高くなる。
特に「広告の価値・効果」の指標として「詳細などのページに誘導した数」で測る際には注意が必要である。その指標だけではユーザーの意図や印象は見えないからである。場合によっては、広告配信者がダークパターンを用いて広告主が意図しない形で「誘導」し、ユーザーに悪印象を持たれてしまっているかもしれない。ダークパターンを用いたのが広告配信者だとしても、悪印象の大部分は広告主に向いてしまう。そうしたことも「効果や価値」にきっちり含めて考えるのが、「UXデザイン」に求められる役割の一つである。