トップインタビュー

「ものづくり改革を総合的に支援」--ダッソー・システムズの新戦略

松岡功

2018-09-20 06:00

 CADの印象が強いダッソー・システムズが、ここ数年で大きく変身を遂げている。そのキーワードは「エクスペリエンス」。どういうことか。2017年11月から同社の代表取締役社長を務める山賀裕二氏に聞いた。

CADから「3Dエクスペリエンス」戦略を展開

ダッソー・システムズ 代表取締役社長の山賀裕二氏
ダッソー・システムズ 代表取締役社長の山賀裕二氏

 「今でもCADの会社だと思っている方が多いかもしれないが、6年前に“3Dエクスペリエンス”という戦略を打ち出してから大きく変わってきている」――。山賀氏は、同社についてこう強調した。このトップインタビューでは、その変身ぶりについて山賀氏の見解を聞いてみた。

 まずは、ダッソー・システムズの概要について紹介しておこう。親会社はフランスのDassault Systemsで、1981年の創業以来、CADソフトウェア「CATIA」を中心に世界140カ国以上で事業を展開し、22万社を超える顧客および1万2600社を数えるパートナーとのエコシステムを保持している。

 顧客の業種も、航空宇宙・防衛、自動車・輸送機械、天然資源、船舶・海洋、医療機器・医薬品、産業機械、ハイテク、金融・ビジネスサービス、エネルギー・プロセス、パッケージ製品・小売、消費財、建設・建築といった12分野にわたっており、それぞれの業種に特化したソリューションを提供している。

 そんな同社が今、注力しているのは、山賀氏の冒頭の発言にもある「3Dエクスペリエンス」戦略の展開だ。これまで3Dの分野において設計からデジタルモックアップ、製品ライフサイクル管理(PLM)へと領域を広げてきたが、最近では3Dエクスペリエンス戦略のもと、ものづくりとしてのエクスペリエンスを追求している。

 ちなみに、エクスペリエンスを直訳すれば「体験」だが、少し言葉を付け加えて「感動体験」、あるいは「これまでにない体験」と捉えたほうが分かりやすいだろう。

 同社の3Dエクスペリエンス製品群は、デザイナーだけでなく一般消費者まで含めて、あらゆる人々が仮想空間の中で臨場感あふれる3Dの体験を創造・共有できる環境を提供しようというものだ。具体的には「ソーシャル&コラボレーション」「インフォメーション・インテリジェンス」「3Dモデリング」「シミュレーション」といった4つの領域のアプリケーションと、それらの基盤ソフトウェアからなる「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム」を提供している(図参照)。

3Dエクスペリエンス製品群の概要(出典:ダッソー・システムズの資料)
3Dエクスペリエンス製品群の概要(出典:ダッソー・システムズの資料)

ものづくり改革をITで総合的に支援する会社に

 では、その3Dエクスペリエンス戦略のもと、ダッソー・システムズはどのように変身しているのか。山賀氏は次のように答えた。

 「かつてはCADソフトをはじめとして、ものづくりにおけるプロセスごとの製品を個別に提供していたが、3Dエクスペリエンス戦略ではそれらをつなげてデータやオペレーションをプラットフォームで一元的に処理できるようにした。これにより、あらゆるものづくりに関わる業務に対して、総合的にご支援できるようになった。つまり、従来の製品販売からものづくりに関わる業務全体のソリューション、さらにはエクスペリンスを追求する会社に変身してきている」

 同社のソリューションには、プロジェクト管理やダッシュボード、チャットなどのコミュニケーション機能まで備わっており、かつてのCADの会社から「あらゆるものづくりの改革をITで総合的に支援する会社」に変身したといえよう。

 さて、この取材を機に、山賀氏には幾つか聞いてみたいことがあったので、以下にそのやり取りを記しておく。

 まずは、同社が2018年4月に開いたメディア向けの事業戦略説明会で、山賀氏は「産業界のデジタル変革の火付け役になりたい」との抱負を語った。これはどういう意味なのか。同氏の見解はこうだ。

 「ものづくりは製造業に限らず、どの業種でも存在する。当社が12分野にソリューションを提供しているのがその証しだ。そのものづくりにおいて『エクスペリエンス』をキーワードにデジタル変革が求められるようになってきた。特に日本企業はこの取り組みにおいて立ち後れている印象が強い。そうした日本企業に、当社がこれまでグローバルでの豊富な事例による実績で培ってきた変革のノウハウをお伝えしたい。それを“火付け役”と表現した」

 火付け役の真意は、変革ノウハウの“伝道師”といったところか。次に聞きたかったのは、クラウド化についてだ。同社も3Dエクスペリエンス戦略の中でクラウド活用を掲げているが、ものづくり分野におけるクラウドの活用は、他の分野に比べて遅れている印象がある。この点についての山賀氏の見解はどうか。

 「ものづくり分野では、例えば設計データを外に出さないといった傾向がまだまだ強く、他の分野に比べてクラウド活用が遅れているのは事実だ。しかし、これからのものづくり改革は内容とともにスピードが求められる。従って、クラウドの活用が必須になってくるだろう。日本では大手もさることながら、中堅中小規模のお客さまにもクラウド活用を積極的にお勧めしていきたいと考えている」

山賀氏の社長就任が象徴するダッソー・システムズの変身

 最後に聞きたかったのは、ダッソー・システムズの社長に就任して10カ月余りが経った今、違和感はないかということだ。というのは、山賀氏はこれまで日本IBMに24年間在籍後、日本マイクロソフトで執行役常務、セールスフォース・ドットコムで専務執行役員などを歴任し、その大半をビジネス分野のエンタープライズ営業として務めてきたからだ。この点について、同氏は次のように述べた。

 「ダッソー・システムズがこれまで中心としてきたエンジニアリング分野と、私がこれまで務めてきたビジネス分野には、ソリューションにおいて違いがあるものの、デジタル変革時代を迎えてお客さまのエクスペリエンスを追求するという方向は、どちらの分野にも共通するようになってきた。その意味では、これまでビジネス分野で顧客接点でのエクスペリエンスを追求してきた私自身の経験を、当社でも大いに生かすことができると実感している」

 考えてみると、山賀氏のような経歴の持ち主が、ダッソー・システムズの経営トップに就くこと自体が、同社の変身ぶりを顕著に示しているといえそうだ。その経営手腕に大いに注目しておきたい。

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