富士通、富士通研究所、早稲田大学は9月19日、「デジタルアニーラ」の共同研究で包括連携すると発表した。早稲田大学の「グリーン・コンピューティング・システム研究機構」内に、実社会の組み合わせ最適化問題をデジタルアニーラで解決するためのソフトウェア開発を行う共同研究拠点を設立する。
デジタルアニーラは、富士通研究所が開発した、組み合わせ最適化問題を高速に解く計算機アーキテクチャで、富士通が5月にサービスの提供を始めている。
災害復旧の手順を決める場合や、投資ポートフォリオの最適化、経済政策の決定など、人や時間などの制約のもとで難しい意思決定を迫られる場面では、さまざまな要因の組み合わせを考慮して評価を行い、最適なものを選択するという組み合わせ最適化問題がある。
こうした実社会の問題を実用的な時間内に解くためには、コンピュータの大幅な性能向上が必要となるが、従来のプロセッサはソフトウェア処理により扱える組み合わせ最適化問題の自由度は高い反面、高速に解くことができない。また、現行の量子コンピュータは組み合わせ最適化問題を高速に解けるが、物理現象を利用した解き方であるため近接した素子同士でしか接続できないという制限があり、現時点では多様な問題を扱うことができない。こうした状況から新しい計算機アーキテクチャの開発が求められていた。
デジタルアニーラは、従来の半導体技術を用いており、柔軟な回路構成を採用することにより、現行の量子コンピュータより多様な問題を扱える。富士通研究所では、2016年に、製造後に回路構成を設定できる集積回路であるFPGAを用いてこのアーキテクチャの基本最適化回路を試作し、一般的なコンピュータに比べて約1万倍高速に計算できることを確認している。
今回の包括連携により、富士通研究所と富士通は、アーキテクチャやハードウェアを含めたデジタルアニーラの技術開発や機能向上を進める。早稲田大学は、高度な学術的研究を生かして、実社会の問題に適用可能なソフトウェアの研究開発を進めていく。
連携の概要(出典:富士通)
今後取り組むテーマの候補として、金融(株価の変動予測)、デジタルマーケティング(データ分析)、物流(配送最適化)などが挙げられている。
金融分野の株価の変動予測では、与信評価などで使用される財務諸表の数値やテキストデータの特徴量を導入したクラスタリング手法による分析、為替のアービトラージ計算への適用などがあるが、精度の高い計算を行うには理論やハードウェアのさらなる高速化や高精度化など多くの課題がある。
デジタルマーケティング分野では、顧客の行動情報をもとに、より良い提案をするために、多数の最適化パラメータから構成される組み合わせ最適化問題を解く必要がある。しかもリアルタイムに最適な情報を顧客に提示するには、問題を数秒単位で解かなければなならない。
物流分野では、物流コストの削減は最重要課題となっている。そこで物流網の見直しや配送の最適化が重要で、配送最適化には、配送指定時間や車両数などのさまざまな制約条件がある中、交通情報が常に変化していくことを前提に組み合わせ最適化問題を解く必要がある。
デジタルアニーラの拡張と応用ソフトウェアの開発により、これらの課題を解決していくとともに、その他のさまざまな分野での取り組みを進めていくとしている。