中国のインターネット業界をリードするビッグ3「BAT」、すなわち百度(Baidu)、阿里巴巴(Alibaba)、騰訊(Tencent)のうち、百度は主に自動運転について注力する一方、阿里巴巴はコネクテッドカーについて注力している。阿里巴巴はもはやECサイトにとどまらない。
阿里巴巴のコネクテッドカーで鍵を握るのは、同社が提供するIoT基盤「AliOS」と、阿里巴巴と上海汽車が立ち上げた企業「斑馬智行(banma、略称は斑馬)」のシステム「MARS」にある。上海汽車との協業は2014年7月から行っている。「AliOS」と「斑馬」と「MARS」は、混同しがちなので注意が必要だ。
現在発表されているAliOSでは、中国で定番の地図サービスである「高徳地図(Autonavi)」、音楽サービスの「蝦米(xiami)」、旅行サービスの「飛猪(Fliggy)」、スーパーマーケット「盒馬鮮生(Hema)」、スマート物流サービス「菜鳥(Cainiao)」といった阿里巴巴の各ブランドとリンクしたサービスを開発できるのが強みだ。
また「タイヤの空気圧など車体状況、道路状況、運転車の表情の“感知”」「拡張現実(AR)を用いたナビゲーション」「手の動きや音声やタッチパネルなどを組み合わせた操作」「車内の複数モニタへの対応」などが強みとなっている。より多くの開発者を呼び込むため、ツールやテスト用のサンプルデータなどを豊富に用意したとしている。
このAliOSを基盤として、斑馬智行がコネクテッドカー用システム「MARS」を提供している。上海汽車が「名爵HS」「名爵ZS」「D90」「栄威RX5」というコネクテッドカーを発売したほか、上海汽車以外からも東風汽車とPeugeot Citroenの合弁である神龍汽車から、AliOS搭載の「東風雪鉄龍(東風シトロエン)雲逸」という車種が発売されるが、これに搭載されているのが斑馬によるAliOSベースのMARSというわけだ。
斑馬はシマウマの意味だ。阿里巴巴が始めたサービスでは、ネコをロゴに使ったECサイト「天猫(Tmall)」をはじめとして、エビをロゴにした音楽サービス「蝦米」、ブタがロゴの旅行サービス「飛猪」、カバのロゴを用いたスーパーマーケット「盒馬鮮生」などと同様、動物を使った名前となっている。
上海汽車の名爵HSでは、MARSによって、ディスプレイでの「高徳地図によるナビゲーション」「支付宝(Alipay)での支払いによるスマートパーキング」「蝦米による音楽サービス」「菜鳥による自宅への小包の到達通知」「多数収録されたお勧めドライブルートの提案」「近所のレストランの予約」が挙げられる。また騰訊の微信(WeChat)内アプリ「微信小程序」の斑馬アプリを活用した車所有者同士の位置情報共有機能やチャット機能も備える。阿里巴巴のAliOSでは、ライバルである騰訊の微信を積極的に提案することはないが、上海汽車との合弁である斑馬からなら微信を使ったソリューションも出せるわけだ。
コネクテッドカーと同等の機能を備えたカーナビは他社からも発売されるだろう。だがスマートスピーカーがそうだったように、優酷(Youku)や蝦米などのコンテンツプラットフォームを擁する点で、AliOSを搭載する製品にアドバンテージがある。さらに阿里巴巴陣営のサービスが車内で使えることにより、AliOS搭載のコネクテッドカーは単なる車のコンディションチェックやカーナビ、メディアプレーヤーを超えたものとなる。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。