Dreamforce

永遠の課題だったシステム間接続、オープンAPI基盤で解決したユニリーバ

末岡洋子

2018-10-01 10:06

 Unileverは、「Lux」「ジフ」「Ben & Jerry’s」などのブランドを持つ大手消費財企業だ。世界で25億人が毎日同社の製品を利用している。小売店との良好な関係にフォーカスしてきたが、時代の変化に合わせて直接自社ブランドのユーザーとつながる取り組みを進めている。Salesforceが9月28日まで米国サンフランシスコで開催した「Dreamforce 2018」では、そこで改めて浮き彫りになったシステム連携という長年の課題を、Unileverがどう解決したのかが明かされた。

Unilever グローバル最高情報責任者を務めるJane Moran氏
Unilever グローバル最高情報責任者を務めるJane Moran氏

 Unileverは2016年に買収した紅茶ショップチェーンのT2、Ben & Jerry’sアイスクリームショップなど、顧客と直接やりとりする実店舗ビジネスを拡大している。T2では、消費者と直に接する店舗のカスタマー体験をデジタルで提供するため、Salesforce.comのコマースクラウド「Commerce Cloud」を使用することにした。

 だが、Eコマース(EC)を展開するためには、既存のシステムに接続する必要があった。創業は1930年。長年をかけてB2Bサプライチェーンを構築してきた。業務アプリケーションは約2000で、この中にはレガシーもたくさんあるという。全システムで管理するデータ量は20ペタバイト級だ。種類ECでは、製品情報データベース、NetSuiteの在庫管理、ディストリビューションパートナーとの連携などをCommerce Cloudに接続しなければならない。

 従来このようなシステムの連携は、プロジェクトを立ち上げ、1つのシステムと別のシステムを接続するコードを書くという作業を、全ての接続ポイントで行う必要があった。当然、システムは複雑になり、どのアプリケーションがどのアプリケーションと、どのように接続しているのか、などが分かりにくくなる。もしNetSuite側で何か変更を加えたら、接続のために作成したコードを一つひとつ再度書き直す必要がある。セキュリティのための追加や制御を加える場合、全てのコードを見て、書き直さなければならない。

これまでのポイント間システム連携では、それぞれにコードを書く必要があった
これまでのポイント間システム連携では、それぞれにコードを書く必要があった

 効率良くシステム間の接続を行うことができれば――とUnileverのIT担当者が行き着いたのが、MuleSoft(Salesforce.comが買収)の統合技術だ。MuleSoftは、APIを利用してシステムとシステムの統合を行う「Anypoint Platform」を提供する。APIの設計、構築、検証から接続、メンテナンスと包括的な技術を揃える。

 最初に、リテールと購入者の洞察をデジタル化し、情報収集のためのAPIを作成した。次に顧客エンゲージセンターで、マスターデータと接続するためのAPIを構築した。その結果、ECプロジェクトでは既存のAPIをたくさん活用して、CommerceCloudと接続したという。

MuleSoftでアプリケーションネットワークを構築することで、API接続によりメリットを最大化できる
MuleSoftでアプリケーションネットワークを構築することで、API接続によりメリットを最大化できる

 UnileverのグローバルCIO(最高情報責任者)を務めるJane Moran氏は、「企業の運用はこれまで通りに継続しつつ、一つひとつを接続していたら膨大な時間がかかる。OpenAPIベースで作成し、それを再利用して接続することで、プロジェクトを40~50%削減できた」と語る。ポイントは、Anypoint Platformでプラットフォームを土台に、API接続を行ったことだ。「最初はAPIを作成するところから始めるが、次々と再利用できる。2つ目、3つ目のプロジェクトでは、速度がさらに加速した」とMoran氏。

MuleSoft 最高経営責任者のGreg Schott氏
MuleSoft 最高経営責任者のGreg Schott氏

 MuleSoftのCEO(最高経営責任者)、Greg Schott氏は、MuleSoftの機能を、アプリケーションネットワークを使い、APIと統合を発見する「発見」、システム間を接続する「接続」、APIを再利用できる「再利用」の大きく3つだとする。

 Unileverの場合、技術的にはCommerce Cloud内にカタログを作成し、Commerce Cloudにある注文情報をNetSuiteに送り、T2のウェブサイトでの発注をリアルタイムに受信できるようにした。これにより、顧客が注文するとその情報がCommerce CloudからNetSuiteに、そして出荷を扱う提携事業者に行き、確認がNetSuiteに入ると、その注文IDがCommerce Cloudに戻るようにした。さらには、APIを再利用してSalesforceのLightning Service Consoleを使いながら、Service Cloudに新機能を構築したという。

 Unileverだけではない。McDonald’sも米国のコンシューマー向けアプリで、SalesforceとMuleSoftを利用し、25のバックエンドシステムを接続しているという。これにより、顧客がアプリを開くとその顧客の好みのフードや、その顧客向けのクーポンが表示されるなどの体験改善を実現しているという。

McDonald’sもMuleSoftを利用して、さまざまなシステムを連携させて顧客に最適なモバイル体験を提供しているという
McDonald’sもMuleSoftを利用して、さまざまなシステムを連携させて顧客に最適なモバイル体験を提供しているという

 「新しいプロジェクトを進めるにあたって、統合が足を引っ張るケースは実に多い。時間だけでなく、資金も大きな足かせになっている」とSchott氏。ポイント間接続に企業が投じる金額は年間7000億ドルに達するレベルという。プラットフォームを構築してAPIで接続することで、コストを削減でき、ビジネスのスピードも高速にできる。「IT予算は増えないが、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、セキュリティなど、システムを統合することで新しいビジネスを創出できるチャンスはたくさんある」と続ける。

 UnileverのMoran氏も同意する。「デジタル技術がビジネスを加速するというニーズがある。企業はデジタルの重要性を理解している。スマートに業務アプリケーションを接続することで、数年がかりのプロジェクトが数カ月、数週間になる。この速度があれば、気軽に試して、うまくいかなければやめることができる」

 最後にMoran氏は、「ITはフロントオフィスとなり、ビジネスの問題を先んじて解決するのを支援する必要がある」と、自分たちの役割の変化を強調した。

(取材協力:セールスフォース・ドットコム)

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