コンサルティング現場のカラクリ

日本のすごいIT部門(2):理想的なIT組織とIT管理が機能するIT部門

宮本認(ビズオース )

2018-10-06 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)

 今回紹介するのも、前回と同じく金融機関のIT部門である。仮にB社と呼ぼう。業界でもトップクラスの企業で、優秀な人材の多さもさることながら、トップ企業としての余裕が随所に見られ、コンサルタントとして非常に働きやすい環境だった。

 コンサルタントという職業上、「働きやすさ」などと簡単に言ってはいけないのだが、われわれも人間なので、どうしても気になることはある。われわれのような職業が働きやすいと感じるのは、良い顧客と仕事をしているときだ。良い顧客とは、期待がぶれず、明確で段取りも良く、顧客の役割である「意思決定」をきっちりとしてくれる人たちだ。

 残念なことに、日本にはこうした「良い顧客」が非常に少ない。期待は常にぶれ、上司の一言で右往左往する。1週間後にやると決めたことも、突発対応がしょっちゅう入る。「情報が集まっていないから」ということで、なかなか意思決定をしようとしない。

 そういう中で、組織とマネジメントがきっちりと機能しているB社は、ひときわ目立つ存在だ。IT組織やITマネジメントについてコンサルティングをするときは、外資系コンサルタントのたわ言と思われないように、実例を用いて話すことが大切だ。そのために、B社の例を何度引き合いに出したか分からない。それくらい、この企業のIT部門は素晴らしいのだ。

 まず、戦略がある。「戦略とは何か」自体に議論があり、それだけで大きなテーマであるが、筆者の考えでは「IT投資戦略」「ITソリューション・技術戦略」「IT組織・ベンダー戦略」の3つを持っている状態が理想と考えている。要は、ITに関するカネ、モノ、ヒトの計画がある状態だ。なるべくなら、全体を通した共通の目標とコンセプトがあることが望ましい。

 このB社では、まず10年間のシステム更改計画が存在し、それぞれの更改計画のテーマと、大枠で使っていい予算、予定されるプロジェクトマネージャーが存在していた。すなわち、2年後に総合会計システムの更改が始まり、その総合会計システムは業務的には経理の完全ペーパーレス化と経理部門要員の削減を狙うプロジェクトにつながり、そこには係長のM君を充てるから、その経験を積ませるために経理部に出向させる、というようなことが、IT部門と人事部門で握られているのだ。当然、先の方になるとそのまま実現するかどうかは、会社業績の状況や世の中の進化、人材の育成状況など不確定な要素があるのであるが、経営の思い付きで案件の優先度が変わって現場があたふたするといったこともないし、ITや人材、経営の進化が実を伴いながら一貫して進んでいく。

 係長であるM君は当時、将来の役割についてはっきりと辞令を受けていなかった。ただし、M君は自分が将来何をやらされるか薄々分かっている。だから、その間、世の中のトレンドがどうなっているのか、B社にとってベストなソリューションの形はどうすればいいのか、経理部門の人たちの中で誰とどう話すとプロジェクトは円滑に進むのか、B社固有の経理業務のポイントはどこにあるのかをじっくりと精通することができる。

 筆者は、B社にて人事システムの更改のコンサルティングを担当したが、人事部門の業務も古かったがよく考えられた仕組みであり、システムもメインフレームで古い技術だったが、アプリケーションは柔軟で拡張性が高くなるようによく練られて作られていたのが今でも印象に残っている。やはり戦略があると、いい人材が育ち、いいシステムができる。結果として、システムが長持ちして効率的な投資になるというのを実感した。

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