本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。
2010年代のファーストインパクト
2010年代のセキュリティ分野で非常に注目を集め、マーケット全体が沸き上がる起爆剤となった衝撃的な出来事が2度発生している。1つは、この分野の拡大につながり、現在では代表的なインシデント事例にもなっている2011年に発生した標的型攻撃事件である。この事件は、日本の国防技術の本丸と言ってよい重工業を狙ったものであった。
この時の標的型攻撃は「新しいタイプの攻撃」などと報道されることもあったが、実際には取り立てて新しくもなく、高い技術が必要な攻撃手法でもなかった。しかしながら、攻撃者が企業をターゲット(標的)としてからのさまざまな行動が“非常に執拗(しつよう)なものだった”というと点を世に知らしめたということでは、セキュリティ業界を一段階進化させた事件と言っていいだろう。
これによって、十分堅固と言われても良いレベルのセキュリティ対策をしていた大企業でも、高い技術を持つ攻撃者にとっては、それほど苦にはならず対策を回避できてしまうことが証明されてしまった。
また、2005年に施行された個人情報保護法でのセキュリティ対策ブームが沈静し、踊り場に到達していた国内市場にとっても大きなインパクトになった。その理由は、法施行からの数年間で攻撃手法が非常に巧妙化していたにもかかわらず、防御側の対策の考え方に変化がない状態が続いたからだ。この状況が大きく変わり、市場も大きく拡大するきっかけとなったのが、この2011年の事件だったのだ。
2010年代のセカンドインパクトは政府主導
2つ目のインパクトは2015年ごろのことである。それまでもセキュリティ業界は、何らかの大きな事件や事故によって都度拡大してきたが、この時のインパクトはインシデントが直接的な原因ではなかった。意外なことに、政府関連機関が公開したガイドラインである。それは情報処理推進機構(IPA)が発行した「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」だ。
このガイドラインには、「経営者が認識すべき3原則」や「サイバーセキュリティ経営の重要10項目」などの記載があるが、その中でも経営者がリーダーシップを取り、セキュリティ対策を推し進めることを明記されていることが最も重要である。
日本企業のセキュリティにおける2つのインパクト