米国ニュージャージー州ウェストオレンジには、メインストリート沿いに2枚の真新しい壁画が飾られている。同市の歴史に彩られたイメージを描きながらも、そのアート作品には何か現代的なものが交錯している。というのも、この壁画は「Albert」という壁を這うロボットが描いたものだからだ。エストニアの発明家とアーティスト/テクノロジストから成るグループが考案したもので、現在は「SprayPrinter」と呼ばれるスタートアップとして展開している。
ロボットは長い間、芸術表現の道具として使われてきた。ロボットが生成したアート作品のコンペも毎年開催されている。また、芸術家は長年、自らの芸術活動のためにロボットを利用してきた。
Albertのプリントヘッドには、5本のスプレー缶を装着できるようになっている。これはグラフィティアーティストが使うのと同じものだ。機能的には、このロボットはデスクトッププリンタとそれほど変わらない。ただし、プリントヘッドはX軸とY軸に沿って動き、上部に取り付けられたガイワイヤー(支線)を使って壁を伝う仕組みとなっている。直径1cm大のピクセルを生成できる。
ロボット型のAlbertの前身となる、より小型のハンドヘルド製品は、Mikhel Joala氏が発明し、クラウドファンディングで資金調達した。ともに作業するエストニアのストリートアーティスト達がしばしばプロジェクトの早期完成を迫られるのを見て、Joala氏は、コンピュータで事前にデザインしたイメージを屋外の壁面に転写する方法を模索した。
そこで彼が考案したのが、ゲームの「Wii」リモコンを位置トラッキング用に車のエンジンバルブにくくりつけたものだ。これにスプレー缶を取り付け、三脚上のスマートフォンと連動する仕掛けである。アーティストが壁面に沿ってスプレー缶を動かすと、スマートフォンは塗料を吹き付けるタイミングや量を端末に伝達するようになっている。
「近頃のエンジンには、燃焼室に燃料を噴射するために極めて高速なバルブが使われている。これを使えば、ピンポイントで正確に塗料を噴き出せると気が付いた」(Joala氏)
Joala氏がエストニアの起業家であるRichard Murutar氏と出会ったとき、ビジネスの種が誕生した。そこから追加のチームメンバーが寄せ集まって、スタートアップとなった。ゲリラアートの世界に片足を突っ込みながらも、他方で、SprayPrinterはシリコンバレーのイベントやアクセラレーターからアワードを受賞している。
Albertは、ハンドヘルド型スプレープリンタのロボット版で、2本のガイワイヤーを使って稼働する。塗装している最中は、ドローンのプロペラを用いてロボットを壁面に固定するようになっている。
2018年9月時点で、世界で100件以上の商業作品を完成させた。エストニアとサンフランシスコにオフィスを設置している。
ニュージャージー州ウェストオレンジの壁画には、7600ドル(約85万円)のコストが掛かったとされている。これは、同じく壁画制作を依頼した近隣都市と合同で商談して提示された特別のパッケージ価格だという。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。