『ミニオンズ』などを手掛けるフランスのアニメ制作会社であるIllumination Mac Guffは、オンプレミス環境のオブジェクトストレージを活用し、将来の拡張性も考慮したシステム構成を採用しているスタジオの一つです。6ペタバイト(PB)のストレージ容量、8万のレンダーファームを有し、1000人のアーティストが活躍しています。アーティストが使うワークステーションは共有環境で3秒の遅れも受け入れられず、最大スループットは120万IOPSが求められます。最新の作品は1本当たりのサイズが2PBにもなり、制作終了後も全ての資産はオンラインでアクセス可能でないといけません。
この規模のスタジオとは言わないまでも、ハーフハイトのモバイルラックに収まり、実効容量で数百テラバイト(TB)程度から導入可能なオブジェクトストレージがアプライアンスとして提供されています。既存環境に追加導入することでワークフローの改善を検討してはいかがでしょうか。
ワークフローの変更は、ルールの徹底とシンプルさが大切ですので、データの流れ、ティアリングを管理するデジタルアセットマネジメント(DAM)またはメディアアセットマネジメントと呼ばれるツールが役立つでしょう。
最初の段階でアクティブアーカイブに全てのデータを取り込むというのは、ビッグデータ分析やライフサイエンス分野でも活用されている手法です。データレイク(Data Lake)という大きなため池を最初のデータ取り込み先や分析・処理後のデータの吐き出し先として用意します。孤立したデータの塊が点在するようなデータのサイロ化を避ける手法です。さまざまな形で送り込まれるデータは、インターネット経由や専用回線で送られたり、外付けストレージで持ち込まれたり、リアルタイムストリーミング処理が求められたり、アーカイブが目的だったりと、サイロ化して再利用を阻害する要因をいくつか持つことになります。これらを全て放り込んでおくストレージを用意して目的別に利用しようというわけです。
ここでも柔軟な拡張性やデータの堅牢性、コストの低廉性が求められます。パブリッククラウドを用いて効率的に処理を進めたり、プライベートクラウドを用いて大量データの分析を高速に繰り返したり、データが要求する処理時間で選択することになるでしょう。例えば、ActiveScaleの場合は、S3プロトコルで接続することで、HPCシステムやHadoopとデータの整合性が取れたティアリングターゲットとして利用できます。
柔軟性、可用性、保守性の高さが特徴のオブジェクトストレージですが、長期運用に耐えられるシステムとして検討する必要があります。故障時の交換対応やソフトウェアアップデート、サポートサービス、ハードウェアリフレッシュ、データマイグレーションなどのサービスも重要です。システムの稼働状況や将来の拡張予測といった情報も遠隔で確認できます。
これまで、オブジェクトストレージの導入例を見てきましたが、コンピュータの利用形態は分散と集中の繰り返しです。メインフレームによる集中処理、クライアント/サーバによる分散処理、シンクライアントやネットワーク中心の新しい集中管理、そしてクラウドコンピューティングです。
オープンソース技術と仮想化技術の普及によって、コンピューティング資源への考え方も変わってきました。変わらないのは、企業活動の中で常にコストが判断基準として重要であることでしょうか。クラウド時代の現在、オブジェクトストレージシステムは、データを管理する場所がプライベートクラウドやパブリッククラウド、あるいはその両方であっても、企業が将来活用するデータの価値創造に役立つでしょう。
- 山本慎一
- HGSTジャパン ジャパンセールスディレクター
- データストレージ技術とソリューションを提供するWestern Digitalにおいて、オブジェクトストレージを中心としたデータセンターソリューションのビジネス開発を主に日本で推進。IBM、日立、Western Digitalなど、30年以上にわたりストレージ業界に従事。コンシューマー製品からエンタープライズソリューションまで、幅広い分野において製品開発、ビジネス開発、マーケテイングなどの経験を持つ。