山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国政府のバックアップでビッグデータが一気に導入される茅台酒

山谷剛史

2018-10-23 06:00

 中国の伝統的な酒といえば「茅台酒(マオタイ)」がその一つとして知られている。中国西南部の貴州省で生産される歴史あるブランドで、中国全土で見かけることから、中国人で茅台酒を知らない人はいないだろう(飲んだことはないという人はそれなりにいよう)。

 中国政府の、あらゆる業界にインターネットテクノロジの恩恵をもたらすという「互聯網+(インターネットプラス)」の掛け声の中、茅台酒の生産企業「茅台」は、自社をスマート化する「智慧茅台(スマート茅台)」を訴えるようになった。茅台は貴州省にあるが、貴州省自体が中国政府のビッグデータ産業重点地区になっている。そのため貴州省を代表する企業である茅台は、貴州省ないしは酒造会社のモデル企業として政府のバックアップを受けているという背景もある。

 このような背景から智慧茅台の目的は、ビッグデータを活用して社内管理・決定・サービス体制などの企業環境を改善していくということとなる。一つの工場しか管理できなかったが、全工場の状況を把握するようになる。また、商品の生産から販売まで追うようにできるようになり、商品の流れが見られるようになり、中国全土の代理店の販売状況を分析できるようになることを目指すと同時に、同社を悩ませるニセモノ(ニセ酒)の流通の歯止めを目指す。

 現在のところ茅台の3万人のスタッフに向けて、会社からの連絡チェックや賃金情報の確認、送迎バスの状況確認や、会社への意見送信機能などが利用できるグループウェアアプリの提供、顔認識システムの運用を新たに開始した。

 生産の現場でもスマート化が進み、茅台酒の材料となる高粱管理のスマート化を行い、在庫管理はもとより、高粱が届いたらすぐに農家にお金を振り込むシステムを作った。利き酒師も、人から機械へ変えたという。

 また、人事でも大きく変化が起きている。新しく管理職に就いた180人の7割が、1980年代、1990年代生まれの若い世代になり、管理職の顔ぶれが一気に刷新された。中国を代表する酒造企業とはいえ、比較的貧しい省の、それも地方都市の非IT企業の同社では過去最大となる人事刷新は、スマート化への転換に本気であると感じられる。

 同社はまだ手探り状態なのか、ビッグデータ以外にも、受付や倉庫内部で自走式ロボットを導入したり、電気自動車(EV)向け充電機能や各種センサやカメラを内蔵した多機能スマート電柱と、それに対応した車を敷地内に導入したりしている。

 しかも、それら全てが2017年10月にスマート茅台が決まってからの出来事なので、中国の模範とするパイロット企業として、この1年で一気に変わろうとしている。同社の今後のビッグデータの取り組みとしては、2018年にビッグデータプラットフォームを開発、2019年には経営や生産でプラットフォームを活用したアプリを開発、2020年には情報をオープンプラットフォームで開放するとしている。

 当然これから数年もさまざまなハードウェアやソフトウェア、包括したシステムが導入されるだろう。中国政府のバックアップは大きく入っているが、中国の大企業が抱えるさまざまな問題をテクノロジにより一気に変えられるモデル企業に茅台がなることができれば、その成功モデルを中国中の企業に拡散することになろう。茅台はITの側面から注目の企業なのだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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