自動車メーカーに直接製品を納入する「Tier1」企業として、自動車部品業界で確固たる地位を築いているデンソー。日本、北米、欧州、アジア、南米などに拠点を擁し、その売上高(2018年3月期2017年度連結)は5兆1083億円に達する。「モノづくり企業」の代表ともいえるデンソーは、今日のデジタルトランスフォーメーションの時代にどう立ち向かおうとしているのか――。デンソーでMaaS開発部長 兼 デジタルイノベーション室長を務める成迫剛志氏に話を聞いた。
最終消費者を意識したモビリティサービス開発
自動車業界はいま、「100年に一度の大変革期」を迎えている。車両データや運転者の情報をクラウドに上げ、それを活用して新たなサービスを提供する「コネクティッドカー」が現実のものとなりつつあり、クルマそのもののEV化や自動運転技術が進んでいる。一方では、Uberなどに代表されるようにライドシェアサービスへの流れもある。こうした動きを総称して、Connectivity(接続性)、Autonomous(自動化)、Shared(共有)、Electric(電動)の頭文字を並べた「CASE(ケース)」という言葉も使われ始めてきた。
こうしたなかで、「Mobility as a Service(MaaS)」という言葉も聞かれるようになってきた。MaaSとは、自動車を含めた交通全体に関する新しい概念であり、さまざまなテクノロジを活用して、次世代のモビリティサービスを作り上げようというものだ。
CASEに代表される技術的なイノベーションを活用し、次世代のモビリティサービスMaaSを開発すること――。これが、デンソーにおいて2017年に新設された「デジタルイノベーション室」のミッションである。
デンソーの顧客は、これまで自動車メーカーが主体であった。しかし、MaaSの世界における顧客は一般の消費者である。デンソーは自社で開発したサービスや機能を、モビリティサービスを提供する企業に提供していくが、これまで以上に最終消費者を意識した開発が必要になってくる。自動車を支える部品を製造してきた「モノづくり企業」にとって、これは新しい挑戦だと言えるだろう。
デンソー MaaS開発部長 兼 デジタルイノベーション室長の成迫剛志氏
成迫氏は大学を卒業後、日本IBM、伊藤忠商事、香港のIT事業会社社長、SAPジャパン、中国方正集団、ビットアイル・エクイニクスなど、IT関連企業でキャリアを重ね、2016年8月に入社した。当時のことを成迫氏は次のように振り返る。
「入社当時に望まれたことは、クラウド上のデータの扱いについて取り組むということです。そこで社内でヒアリングをして、ソフトウェア開発に関する社内の現状をつかむことから始めました」
もちろんデンソーにもソフトウェア開発の部署はあった。しかしそこで行われていることの多くは、電子制御をつかさどる組み込みソフトウェアの開発だった。成迫氏に求められていることは、MaaS関連のサービス開発だ。具体的には、ソフトウェアやそれらを統合したプラットフォームを開発することになるが、既存の開発部署にはない発想を持った人材が必要になる。
「わたしが取り組む課題は、CASEの中でも特にコネクティッドの分野が中心になります。最終消費者とつながっていく必要があるので、ユーザーとともに考えながら進化し、成熟していくサービスを開発していくべきだろうと考えました」
そのように考えていくと、シリコンバレーのスタートアップ企業のような開発チームであることが理想だと、成迫氏は考えた。すなわち、「アジャイル開発」「クラウドネイティブ」「オープンソース」「デザインシンキング」の4つのキーワードで新しい開発チームを作り上げていくことにした。
そして成迫氏は、会社に「デジタルイノベーション室」の新設を提案し、それが認められ、入社翌年の2017年4月に同部署がスタートすることになる。