2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けたボランティア募集のウェブサイトが9月下旬に公開され、その応募フォームが(少なくともユーザーインターフェース(UI)研究者などの間で)話題になった。その理由は、応募フォームが利用者にとって使いにくく、質の悪いユーザーエクスペリエンス(UX)を生じさせる要素が満載だったためだ。そうした使い勝手の悪いUIは、「Bad UI」あるいは「BADUI」などと呼ばれる。
Bad UIは、使いにくさやUXの悪さだけでなく、具体的な被害を、それも大きな被害をもたらす原因にもなり得る。UIの設計者がBad UIを作らないようにするのはもちろんのこと、多くの人にとっても日頃からBad UIを意識して、それが何を引き起こすか予想し、どう直せばよいかを考えるようにすることが重要だ。
Bad UIとは
利用者と計算機システムやアプリケーション、あるいは利用者と何かのシステムや環境とをつなぐ部分がUIである。利用者が目的を果たせるように設計されているのが最低限の要件になる。「良いUI」であるためには、利用者ができる限り楽に、そして快適に目的を果たせるようになっていなければならない。
楽さや快適さを測るのは必ずしも簡単ではないが、この連載でもたびたび取り上げているように、「使い方が分かりやすい」「間違いにくい」「見つけやすい」「迷わない」「必要以上の労力が要求されない」「期待通りの動作をする」「安心して使える」などの要素がおおよその指標となる。そして、これらの要素の逆を行くUIが「Bad UI」である。
すなわち、UI設計のせいで、使い方が分かりにくかったり、間違えやすかったり、必要なものが見つけにくくなっていたり、見つけても確信が持てなかったり、無駄な労力をかけさせられたり、思っていたのとあまりにも違うことが起こってびっくりしたり、不安になったり、混乱したりするようなものである。
Bad UIはヒューマンエラーの温床でもある。直接、勘違いや操作ミスを引き起こすだけでなく、利用者の集中力や注意力を無駄に消耗させるなど、間接的な影響も無視できない。
もちろん、多くの場合、設計者は意図してBad UIを設計しているのではない(多少なりとも意図的に設計したり、そうでなくとも分かっていながら改善せずに放置したりするものは「ダークパターン」と呼ばれる)。ある状況ではBad UIではないが、状況や組み合わせによってBadになってしまう場合もある。
また、システム自体の制限に起因するような使いにくさの場合はBad UIと言い切れないかもしれないが、利用者にとっては区別が付かないことも多い。加えて、そうした制限などを、UI設計でうまくカバーしたり、利用者に明示的に伝えたりするなどの努力は必要であり、その対策が取られていないものはBad UIと言われても仕方がない。
Bad UIを分類する
残念ながら、世の中はBad UIであふれている。それぞれの性質を考察し、分類することで、Bad UIを見つけ出す観察力を養い、どう修正したりすべきかを考えるのに役に立つ。
分類の仕方は幾つか考えられる。例えば、「楽しいBADUIの世界」というウェブサイトを作っている明治大学 総合数理学部の中村聡史教授は著書『失敗から学ぶユーザインタフェース』で、「手がかり(の欠如)」「(不適切な)フィードバック」など、Bad UIをもたらす原因を軸にこれらを分類している。
ここでは、Bad UIがもたらす結果、つまりUX的な観点を軸に主な例を分類して紹介する。ここに挙げた以外のタイプや複数のタイプが合わさったようなものもあるので、皆さんで考えてみてほしい。