展望2020年のIT企業

富士通がSIサービスなどで利益率10%目指す戦略に転換した理由

田中克己

2018-11-06 06:30

 「国内SIビジネスは堅調に推移しており、2020年を過ぎても需要は落ち込まない」――。富士通の田中達也社長が10月26日開催の経営方針進ちょくレビューで、楽観的な見通しを語った。その一方で、「グローバル企業と伍して戦う上で必要な数字」として、田中社長が経営方針に掲げた営業利益率10%を取り下げた。国内SI市場が縮小傾向にあるのに加えて、クラウドシフトの加速と人工知能(AI)などの新興ITベンチャーの台頭で、伝統的なIT企業を取り巻く環境は厳しさを増している中で、収益率の低いユビキタスソリューション事業とデバイスソリューション事業を抱えたままでは難しいからだろう。

 そこで、2022年度にSIサービスなどのテクノロジソリューション事業だけで、営業利益率10%、売り上げ3兆1500億円にする目標に変更した。田中社長は「達成可能」と主張するが、2017年度の実績と比べると、売上高は微増だが、営業利益率は3.8ポイントの大幅な改善になる。共通費を含めれば、改善幅はさらに拡大する強気な計画だ。しかも、アナリスト向け説明会では「国内の営業利益率は13%のイメージ」と語っているので、大掛かりな構造改革と成長計画を実行しなければ、達成は難しいように思える。

 答えの一つは、最大の収益源であるSIサービスのシェア拡大を図ることだろう。そのため、国内ビジネスの営業改革を推し進める一方、ユビキタスソリューション事業とデバイスソリューション事業を“強い独立ビジネス”にする考えだ。田中社長は「ひと山を越えた」と語り、テクノロジソリューション事業に経営資源を集中できることを改めて強調した。構造改革はいつ終わるのだろう。

 その国内ビジネスの営業改革は現在、富士通とグループ子会社に分散する合計約1万人の営業を、製造や流通などの成長分野にパワーシフトをするとともに、顧客を担当するアカウント営業と新ビジネス創出など付加価値の高い提案を担う専門営業に分けること。人月ビジネスから提案型ビジネスに転換するためで、2020年度までに専門営業1200人を育成する。営業担当の北岡俊治執行役員専務が販売子会社の富士通マーケティングの社長を兼務し、一体感も強めていく。

 ただし、再教育に時間がかかるだろう。売り上げではなく、ビジネスの創出や収益など、アカウント営業とは異なる能力を求められるからだ。そこで、グループ子会社の総務や人事など間接業務を本社に集約し、間接部門2万人のうち5000人を、不足するSAPコンサルタントなどに配置転換する。こちらも簡単なことではないので、外部の優秀な人材の採用やコンサルティング会社との協業も推し進める。さらに、育成し始めているデジタルイノベータと、富士通総研のコンサルティング部隊の連携を図る。だが、こうした施策で、目標は達成できるのだろう。一つのカギは、圧倒的なシェアを握れる業種・業務別ソリューションを増やすことだろう。

 収益改善には、価格競争が激化するプロダクトの選択と集中も考えられるが、今回の進ちょくレビューでは具体的な施策発表はなかった。代わりではないが、海外の不採算拠点を整理する。とくにプロダクトビジネスの売り上げ比率の高いEMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)の地域になる。「成長の芽を摘んでしまう」(田中社長)からだ。IAサーバなどを開発・製造するドイツのアウグスブルグ工場も閉鎖する。こうしたこともあってか、海外売り上げ比率50%という目標は下ろした。

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