コンサルティング現場のカラクリ

ITの基本戦略を設定する(2):日本企業にこそIT部門の基本戦略が必要

宮本認(ビズオース ) 2018年11月17日 07時00分

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(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)

 長い道のりと分かっている改革を続けて成果を挙げるには、幾つもの条件が整わなければならない。何よりも、推進役となる最高情報責任者(CIO)や情報システム部長が長期政権を確立しないといけない。数年で交代になったら困る。着実に成果を挙げながら、長期的に改革を進めなければならない。

 それに優秀な人材が集まる、良いアドバイザーに恵まれるといった条件も加わる。ただ、何よりも大切なのは、長く改革を続けられるような、普遍的かつ本質的で、分かりやすく、キャッチーなメッセージを固めなければならないということだ。国家に例えれば、「自由・博愛・平等」といった「建国の精神」のようなものを確立しておかねばならない。

 企業経営において、しっかりとした理念が必要であることは言うまでもないだろう。その理屈はさておき、多くの企業を見ていると、理念の重要性を痛感する。理念は戦略よりも上位の概念である。「ステートメント」や「綱領」「企業理念」「クレド」などと呼ぶこともある。簡単に言えば、企業指針や行動規範だ。そうした「共通的な価値」によって、企業はより個性的になる。

 業界内の企業数が多い日本では、特にこうした共通的な価値を全社員が一丸となって取り組むことで、組織の個性が磨かれ、企業として発展し、長きにわたって存在感を発揮し続けることができるのだ。

 IT部門を見ていこう。経営自体が個性を磨いて生き残りを図ろうとしている中で、IT部門だけが漫然と業務をしていくことはあり得ない。自分たちの置かれた環境と抱えている問題に応じて、企業の個性に正面から向き合う必要がある。

 言うなれば、経営層やユーザー部門、顧客、そしてIT部門の構成員と向き合うということでもある。ただ、それぞれの企業が向き合う課題は、たとえ同じ産業であっても、各社で異なっている。標準化の度合いが高い地方銀行でもやはり違っている。同じ上位地銀であったとしても、情報システム部門の要員数に結構な違いがある。

 各社のIT部門が独自の課題を抱え、それぞれの経営層やユーザー部門、顧客と向き合う以上、骨太な理念を持って課題に挑む必要がある。ここでは、それを「IT基本戦略」と呼ぶこととする。非常に分かりにくい表現だが、「自分たちがどこで頑張り」「どういう評価を受けたいか」「それをどう実現していくか」といった基本的な考え方をしっかりと打ち立てて、企業が発揮しようとする個性と整合していなければ、日本の経営とは相いれないのだ。

 「うちのシステム部門は全然だめだ」ということを飲みの席で言われたりすることはないだろうか。ベンダーだってちゃんと管理できていないし、開発をやらせれば失敗する。ユーザーを全然リードできず、言いなりになっていると言われたことはないだろうか。これは、ユーザー部門の求めること、やってほしいことに対して、IT部門が十分な価値を発揮できていないから、そう言われてしまうのだ。

 繰り返しになるが、筆者は問いたい。企業経営には理念があるのに、IT戦略には理念がなくていいのだろうか。業界トップの企業のみが他がやっていないイノベーションを考え、2位以下の企業はそれをまねすればいいという欧米とは、大きく異なるのだ。それぞれの企業自体が実は個性が強いために、IT部門もその個性を受け止めて、整合性の取れた理念を持つべきだと強く思う。

 そのため、IT部門は基本的な理念、すなわち“IT基本戦略”としてミッションとバリューを定め、認識をすり合わせておくべきなのだ。

 筆者は常々、ミッションというのは「何をすると褒められるのか」と言い換えるようにしている。経営層やユーザー部門、顧客は、何をすると褒めてくれるのか。それが本当に求められていることならば、多くのIT部門が伝統的に守っている価値観である「安心・安定」でも、海外企業のような「革新への貢献」でも、IT活用で業界トップになることでも、テクノロジ企業になることでも構わない。大切なのは、はっきりと意識するということだ。

 次に「バリュー」。直訳すると価値なのだが、ITの価値とは、突き詰めるとROI(費用対効果)とQCD(品質、費用、納期)である。費用対効果の高さは、特に重要な要素だ。どんなに良いものを作っても、ROIが100%を切るようなら、それは失敗だ。また、日本のIT部門は、品質こそが価値と捉えていることが多い。不具合を作らない、障害を起こさないということが、骨の髄まで染み付いている。それが求められているならば、それで構わない。納期死守というのもあるだろうし、スピードこそが価値だと考えている人だっているだろう。それが、今の経営にとって役立つものならば、だ。

 いずれにしても、褒められるときに「上手にやったな」と言われるための理由だ。その基準がはっきりしないと、なかなか褒めてくれない。残念ながら経営は決めてくれない。ユーザー部門にしたって人によって基準は違うし、移ろうものだ。結局、自分で決めていくしかない。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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