ヤマト運輸 代表取締役 専務執行役員を務める栗栖利蔵氏
ガートナー ジャパンが11月12~14日、「Gartner Symposium/ITxpo 2018」を開催した。基調講演のゲストにはヤマト運輸 代表取締役専務執行役員の栗栖利蔵氏が登壇し、「ヤマト運輸の成長戦略~対面接点×デジタルイノベーションで創る~」と題して講演を行った。
ヤマト運輸は「宅急便」などの配送サービスを提供し、現在は年間約18億個の荷物を運んでいる。ここ20年ほどは、荷物の受け手側から「ヤマト運輸を使ってほしい」と言ってもらえるように、店頭受取サービスなどのようなインフラ整備に注力してきた。
栗栖氏は、「これまでの成長モデルは規模の拡大。店舗数や社員を増やしてきたが、ここへきて外部環境が変化した」という。EC(電子商取引)が急速に普及し、企業が発送する荷物が急増した。労働力も減っており、ドライバーへの負担が増えた。こうした経緯から2017年9月、中期経営計画を策定し、「働き方改革を中心に据えるとともに、デリバリー事業の構造改革などに着手した」(栗栖氏)
ドライバーは先発完投型から役割に応じた分担型へ
働き方改革では、単純に労働時間を減らすのではなく、職場の環境作りに取り組んだ。古い店舗を修繕するといったハードウェア面での環境作りに加えて、働きやすい労働時間や環境を整備した。
デリバリー事業の構造改革に対しては、3つの重点施策を掲げた。(1)持続的な成長を可能にする事業構造の再構築、(2)価格戦略と事業の効率化による利益率の回復、(3)地域の課題を解決するビジネス基盤の構築――だ。
事業構造の再構築に向けて取り組む施策が、複合型の「ラストワンマイルネットワーク」である。従来はフルタイムで働くセールスドライバーが“先発完投型”で働いていたが、今後は時間帯に応じて、役割が異なるドライバーを配置する。
午前中から夕方にかけての早い時間帯は、宅急便の配達に加えて集荷や渉外(営業)を実施する多機能型のセールスドライバーを配備する。一方で、午後から夜間にかけての遅い時間帯は、配達に特化したドライバーを配置する。
受け手のニーズを優先、いつどこでも荷物を受け取れるように
物流の見える化(ブロックチェーンによる荷物のトレースなど)や、サプライチェーンではなくデマンドチェーンの視点を持つことといった、物流プラットフォームの構造改革にも着手した。
物流倉庫の付加価値として、新たな領域にもチャレンジしている。3Dプリンタを使って配達先付近の倉庫で製品を製造して届けるといった取り組みや、医療機器の洗浄やメンテナンス、機器の修理や組み立てなどを実施する。
国土交通省とともに取り組んでいる実験では、トラックを2台連結した全長25メートルの「スーパーフルトレーラー25(SF25)」を、厚木、中部、関西ゲートウェイ間で運行している。このトラックの背後に自動運転トラックをつなぐ構想もある。
ラストワンマイルをオンデマンド化する施策も重要だ。現在でも、配達時の不在を減らすために受け取りチャネルを増やしている。宅配ロッカーの「PUDOステーション」は現在3000カ所を超えており、2019年3月には5000カ所を超える。コンビニエンスストアやヤマト運輸の宅配センターなどでも受け取れる。
将来は、受け手がカフェなどの自由な場所で、自由な時間に荷物を受け取れるようにする。神奈川県藤沢市のフィールド実験においては、「何時何分に、このカフェにいる」というようにスマートフォンアプリから配達先を指定できるようにした。「ロボネコヤマトプロジェクト」と呼ぶ無人運転も検討している。神奈川県藤沢市において2017年から1年間、無人運転を目指した配送車両を走らせている。
宅配リソースを使って郊外が抱える社会の課題に対処
地域の課題を解決する取り組みも実施する。少子高齢化や地域経済の低下といった社会の課題に対して、ヤマト運輸の経営資源を使って支援を実施する。地域経済を活性化させたり、安全・安心に暮らせる生活環境を実現したりする。
ヤマト運輸が実際に取り組んでいる例の1つが、東京西部の丘陵地に広がる多摩ニュータウンだ。多摩ニュータウンは、急な坂道が多く、住宅はエレベーターがない5階建が主流。役所や総合病院はバスを乗り継がないと行けない。嗜好性の高いものは駅近辺のお店にしかない。
これに対してヤマト運輸は、「ネコサポ」と呼ぶ地域支援の仕組みを適用。「都市郊外における地域課題の解決に貢献する総合的な生活支援のパイロットモデルを構築した」(栗栖氏)
具体的な取り組みの例として、佐川急便や日本郵便の荷物もまとめて一緒に配送する。要望に応じて、家の中のタンスの置き場所を変える、といった作業も支援する。鉄道やバスの空き空間を使って荷物を運ぶ連携も行っている。