ガートナー ジャパンが11月12~14日、「Gartner Symposium/ITxpo 2018」を開催した。セッションの1つとしてリサーチ部門バイスプレジデント兼アナリストを務める鈴木雅喜氏が登壇し、「ブロックチェーン:日本のCIOが知っておくべきこと」と題して、最高情報責任者(CIO)が知っておくべきブロックチェーン技術について講演した。
ガートナー ジャパン リサーチ部門バイスプレジデント兼アナリストを務める鈴木雅喜氏
ブロックチェーンの事例はまだ乏しく、真の価値とビジネスへの影響に関しては、議論が続いている状態だ。講演で鈴木氏は、ブロックチェーンの基本と特性、課題、CIOが成すべきことについて説明、その結論として、ブロックチェーンは細く長く継続するものと位置付けることが大事だと指摘した。責任者を決め、取り組みの成果としては、ブロックチェーンのトレンドについて定期的に報告させる。小さく1人でPoC(概念検証)に取り組むことも有効だ。ブロックチェーンは難解なので、経営層にすぐに腹落ちさせるのは無理だという。
ブロックチェーンとは、「鈴木さんから佐藤さんへ100円送る」といった取引が、チェーン状につながったシステムのこと。特徴は、その仕組み上、取引内容の改ざんが難しいことだ。取引のチェーンをさかのぼって修正しない限り、改ざんできない。
取引(n)は、「取引データ(n)、電子署名(n)、取引(n-1)のハッシュ値」を持つ。取引(n+1)は、「取引データ(n+1)、電子署名(n+1)、取引(n)のハッシュ値」を持つ。このように直前の取引内容のハッシュ値を含んだ形でチェーンが延々とつながっていく。個々の取引は、合意形成メカニズムで認証して成立する。
こうしたアーキテクチャの特徴から、ブロックチェーンは、人や権威による仲介を通さずに価値を高速に交換できる。これに対して従来は、権限が中央に収集した中央集権型だった。
ハイプサイクルでは「過度の期待のピーク」に
ブロックチェーンは、コア機能と、コア機能を利用したアプリケーションに分かれる。例えば、ウォレット(財布)はアプリケーションになる。コア機能はオープンソースソフトウェア(OSS)として公開されている可能性が高い。
ガートナーのハイプサイクルでは、ブロックチェーンは「過度な期待のピーク」を越えたところにあり、これから減滅期へと向かう。ブロックチェーンを支える合意形成メカニズムや非中央集権型アプリケーション、スマートコントラクトといった応用例については、まだ黎明(れいめい)期にあり、これから期待が高まっていく段階だ。
合意形成メカニズムは、ブロックチェーンネットワーク内で、取引の記録と成立を認証する仕組みのこと。この処理は重く、仮想通貨のBitcoin(ビットコイン)のコア機能で1秒に3件、Ethereum(イーサリアム)のコア機能で1秒に7件しか処理できない。
スマートコントラクトは、あらかじめ条件を指定しておき、条件に合致したら自動で取引を実行する、といったことができる仕組みのこと。複数の参加者が同意したルールをあらかじめ定義しておくことで、第三者の介在なしで取引を自動的に進行、検証、実行できる。
鈴木氏は、企業が持つブロックチェーンへの誤解を幾つか挙げた。
- ブロックチェーンはどれも同じである
- ブロックチェーンはRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)である
- ブロックチェーンですぐにコストが下がる
- ブロックチェーン=仮想通貨である
- ブロックチェーンにはセキュリティリスクがない
- ブロックチェーンは使いものにならない
- ブロックチェーンがすぐに世界を変える
特に、最後の2つについては「使いものにならないという悲観論や、すぐに世界を変えるという楽観論は、捨てた方がよい」(鈴木氏)とした。