ガートナー ジャパンが11月12~14日、「Gartner Symposium/ITxpo 2018」を開催した。13日のセッションにはリサーチ部門バイスプレジデント兼アナリストを務める本好宏次氏が登壇。「ポストモダンERPプロジェクト成功の秘訣」と題し、ポストモダンERPを導入する際の「10大リスク」を示すとともに、リスクを回避・軽減するための対策を説明した。
ガートナー ジャパン リサーチ部門バイスプレジデント兼アナリストの本好宏次氏
「ポストモダンERP」は、ERP(統合基幹業務システム)がたどってきた近代化の歴史の現段階に当たる。ERPは、近代化の過程でスイート化(巨大化、肥大化)を進め、その機能がカバーする範囲を広げてきた。現在は近代化の過程が終わり、ポスト近代へと移行。モダンERPが備える信頼性を維持したまま、小回りが利く俊敏性を追加している。
モダンERPのスイート製品を概観すると、会計や人事などの管理系に強いパッケージもあれば、生産や販売などの実行系に強いパッケージもある。このうち、管理系は標準化に向いているが、実行系はカスタマイズが多いのが実情だ。
モダンERPと比べたポストモダンERPの特徴とは、モダンERPの“機能を分解していること”だという。典型的なポストモダンERPの姿は、その中心にオンプレミスのモダンERPを据え、周辺にクラウドのERPをつなげた形になる。そのイメージは「巨大なタンカー(モダンERP)から一部機能が分解されたモーターボート(クラウドERP)となってタンカーを取り囲む護送船団のようなもの」(本好氏)だ。
ポストモダンERPの注意点は、新しい機能を戦略的に取り込まないと、すぐに陳腐化してしまうことだという。「膨大なお金をかけていたら、いつの間にかスイート型のモダンERPができていた、ということになりかねない」(本好氏)
講演で本好氏は、ポストモダンERPのライフライクルに潜む次の10大リスクを指摘した。
「戦略策定・計画」フェーズのリスク
- 1.大義名分を見いだせない
- 2.「守りの投資」に偏重してしまう
- 3.適切なスコープを設定できない
「アーキテクチャ検討」フェーズのリスク
- 4.現行システム/業務をERPで「再現」してしまう
- 5.クラウドERPに過度に期待してしまう
「選定」フェーズのリスク
- 6.「手組み」ベースのRFP(提案依頼書)を出してしまう
- 7.異なる製品を比較できない
「導入・展開」フェーズのリスク
- 8.ユーザーが「片手間」で参加し、重要タスクが滞ってしまう
- 9.カスタマイズを適切に抑制、実装できない
- 10.トレーニングを軽視してしまう
SoRのコスト削減にはRPA/AIも有効
戦略策定・計画フェーズの第1のリスクは、例えば、SAP ERPをSAP S/4 HANAに入れ替えるといった案件において、“大義名分”を見いだせずにプロジェクトの推進力が不足することだ。しっかりした理由を打ち出さなければ承認が下りづらく、抵抗勢力からの反対も出る。
その対策は、経営層による“錦の御旗”を立てて、トップダウンのアプローチを採ること。IFRS(国際財務報告基準)対応や働き方改革などが有効になる。「働き方改革の業務削減手段の本丸はERP。経費精算もERPの一つのモジュール。毎日何かしらERPを使っている。要件をまとめて人の心に響くようにすると受け入れられる」(本好氏)
戦略策定・計画フェーズの第2のリスクは、守りの投資に偏重してしまうこと。多くの企業では、会計システムなどのSoR(System of Record:記録システム)にIT予算の90%を割いており、テクノロジの進化に取り残されている。SoRに当たるERPのコア部分をダウンサイジングし、その浮いたお金で、差別化を図るための新しいシステムに投資をする必要がある。
財務会計のコスト削減には、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)や人工知能(AI)も武器になる。ガートナーでは、戦略的プランニングの仮説事項として「2020年までに、RPAによって経理部内の付加価値につながらない業務が20%削減される」こと、「2020年までに、ERPやアプリケーションへの組み込みAIは財務会計システムの評価における重要な差別化要因になる」ことを挙げている。
戦略策定・計画フェーズの第3のリスクは、適切なスコープを設定できないこと。ERP以前の世界はベストオブブリードで機能ごとに最適なアプリケーションを用意し、組み合わせていたが、現在ではベストオブブリードの一つとして、ERPスイートのうち会計モジュールだけを切り出して使うのはもったいないという。
一方、これからERPスイートで、巨大なタンカーのようなシステムを構築するのも時代遅れである。今のところ、ERPスイートを中心に据えつつ周辺にアプリケーションを用意するハイブリッド型のERPシステムが現実的となる。