コンサルティング現場のカラクリ

ITの基本戦略を設定する(3):日本のIT部門のミッションは難しい

宮本認(ビズオース ) 2018年11月24日 07時00分

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(本記事はBizauthが運営するブログ「BA BLOG」から転載、編集しています)

 経営理念の「ミッション(使命)」と「バリュー(価値観)」において、本当に難しいのはミッションの方だ。

 バリューの実現も難しいことなのだが、経営と話して優先順位を付けてもらえばいいことだ。あるいは、それぞれのミッション、すなわちやるべきことの特性に応じて決まってくることも多い。

 例えば、デジタル化を進めようとするときにスピードを重視しない人や、基幹系システムを構築するときに品質を重視しない人がいるだろうか。バリューとは、話せばすぐに共通理解が得られると筆者は思っている。もっとも、そうしたバリューを設定できないことも、苦悩する要因の一つであるが、これはまた別途詳述する。

 また、バリューについては、筆者の経験上、多くのIT部門で「何となく」でも持っていることが多い。例えばIT部門の年間計画に、「システムの安定運行」「システム障害のゼロ化」など、毎年ずっと同じことが書いていないだろうか。あるいは、「システム障害ゼロ×××日継続中」などと掲げられていないだろうか。さらに、大規模システムの開発時に神社へ安全祈願に行かないだろうか。こうしたものは、立派にバリューを考えているということだと思う。

 繰り返すが、難しいのはミッションの方だ。

 多くの最高情報責任者(CIO)やIT部門トップに、冗談任せで「何すると褒められるんですか?」と聞くと、多くの人が「何するといいんだろうねぇ」と答える。そう。分からないのだ。あるいはすり合っていないのだ。基幹系をきちんと維持・運用していくことは大切だ。顧客データベースを作って営業改革も進めなければならない。当然、新製品や新サービスもどんどん投入できた方がいい。そのために情報システム部門の改革だってできていた方がいい。企業改革に貢献する部門であった方がいいのはなおさらだ。ありきたりのことは経営もIT部門のトップも考えているのだが、ぼんやりとしていたり双方の考えがズレていたりする。それが今の状態なのだろう。

 システムの安定運行はとても大切だが、経営層・ユーザー部門・顧客が求めているのはそれだけであろうか。確かに、経営者は生半可な耳学問で、無理難題を言うこともある。しかし、経営層・ユーザー部門が本当に望んでいるものを正しく理解し、そこに向かってちゃんと進んでいるだろうか。移りゆく顧客が期待するものを受け止め、実現しようとしているだろうか。

 逆の言い方でもいい。IT部門や予算も人材も限られている。そうした状態であれば、彼らの望みを全てかなえることはできないのは当然だ。そうであるならば、「これはやらないし、できない」と言うものをはっきりと示すことが必要だ。果たして、こうした「IT部門がやらないこと」を明確にしているだろうか。

 あくまで筆者の独自の解釈だが、海外のIT部門のミッションはイノベーションをもたらすことだと感じている。非常にシンプルであるし、IT部門の活動や目標は全てイノベーションに向いている。Accentureのブランドメッセージに「Innovation Delivered」というものがあった。これは世界のITが目指す方向性を良く体現していると感じる。あらゆるIT活用の領域をイノベーティブにしていくことが、企業のIT部門の役割なのだ。革新的なことを次々とビジネスや業務に取り入れる。その結果、顧客体験は磨かれる。従業員の業務もますます効率化される。データ活用が進めば、データを見ながらクリエイティブな発想が生まれる。そして、経営はより自由自在に自分がやりたいことを組織に浸透させ、それを実現することができる。

 安定運行という地味だが重要な仕事を無視しているという誤解が生まれるかもしれない。海外企業とて、これを重要ではないと言っているわけではない。こうした領域でもイノベーションをもたらそうとする。安定運行については基幹系の領域が中心であるが、「コスト安」というイノベーションを追求しようとしている。だから、オフショアなどが流行るのだ。同じことをやるならば、コストの安いインドや東欧、南米でやった方が企業経営にとっては有益だからだ。

 この点、さすがはグローバルスタンダードを推進するが故に非常に本質的だ。特に業務プロセスと大きく関わりを持つITが企業経営にもたらせるのは、まさにイノベーションに他ならない。技術(テクノロジ)が革新(イノベーション)をもたらすことで、人間社会が発展してきたことをそのまま体現していると思う。

 日本企業にとっても、大いに参考になる考え方だろう。テクノロジを扱う部門であるため、経営層・ユーザー部門・顧客はどこかで、IT部門にイノベーションを求めている。たとえ、落ちこぼれのIT部門とレッテルを張られ、何年もそれに甘んじていたとしても、イノベーションを求められる瞬間はあるだろう。

 しかし、日本のIT部門がグローバルスタンダードのIT部門のミッションを、そのまま受け止めることは危険である。理由は前述しているが、置かれている環境が違い過ぎるのだ。イノベーションをその言葉通りにそのまま追求してしまうと、ますます深い悩みの淵に落ち込んでいってしまう。その淵がどれくらいの深さなのかは想像だにできない。

 また、イノベーションには金がかかる。それはそうだ。勃興し始めた要素技術の導入を、試行錯誤を繰り返しながら考える。当然、何か一つに賭けるわけにもいかず、幾つかの技術に投資が必要だ。失敗も許容しなければならない。テクノロジでイノベーションを起こせるのは、資本の集積・蓄積ができた国だ。要は金があるところで、その問題は避けて通れない。海外企業の場合は、それをトップ企業が担うのだ。2番手、3番手の企業はそれに乗っかればいい。

 日本のIT部門が単純に、「ミッションはイノベーション」と言えないことに、日本企業の難しさがある。ある意味、イノベーションを追求しろと言ってくれると楽かもしれない。しかし、日本企業は、繰り返しになるが、海外だと即座に売却されてしまうほど業績が長く低迷している企業もあり、イノベーションに必要な資本の蓄積がないケースも目立つ。要は、金がない。イノベーションのコストである失敗に耐えられる企業が少ない。だから、大金を投じてイノベーションを推進するシリコンバレーの企業にはかなうはずがない。単純にミッションをイノベーションに置きにくいのが、日本企業のIT部門なのだ。

 ちなみに、以前の記事で紹介した「日本のすごいIT部門」は、IT理念について直接聞いたわけではないが、独自の「IT基本戦略」を持っていたように強く感じる。彼らの言葉の節々で、「うちは日本最安でなければならない」「あらゆる領域で日本ナンバーワンでなければならない」「経営層とユーザー部門の要請にとにかく早く答える」というようなキーワードがしばしば出てきていた。声高に社内で語られるかどうかはよく分からないのだが、IT基本戦略が確立・浸透していることの証左だろう。そしてそれは、単純にイノベーションというわけではない。

 ただ、独自のミッションをやり抜いているからこそ、すごいIT部門として君臨しているのだ。コストでもいい、品質でもいい。もちろん、資金が十分にあるならば、グローバルスタンダードと並び、イノベーションでも構わない。自社にあった独自の向き合い方を、経営層・ユーザー部門・顧客とすり合わせていく必要がある。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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