10年で来店客4割減の伊予銀行、危機を商機に変えるデジタル戦略

國谷武史 (編集部)

2018-11-26 06:00

伊予銀行 常務取締役 CIOの竹内恒夫氏
伊予銀行 常務取締役 CIOの竹内恒夫氏

 伊予銀行(松山市)とアクセンチュアは11月22日、同行のビジネスのデジタル化に向けた共同プロジェクトの最初の成果となる「Chat Co-Robot」を発表した。同行はこの10年で来店客が4割減少する危機に直面していたといい、常務取締役 CIOの竹内恒夫氏は、「失敗を恐れずデジタル化を推進しなければならなかった」と語る。

 地方にとって少子高齢化に伴う人口の減少は、都市部の感覚をはるかに上回る深刻な課題だ。地域に根ざした活動が使命となっている地方銀行では、利用者の減少が経営に与える影響は非常に大きく、だまってこの事態の進行を静観するだけでは、早いうちに存亡の岐路に立たされてしまう。竹内氏は、同行を取り巻く経営環境の変化に加え、社会情勢も変えるテクノロジの進化や普及の進展が想像以上に速いペースであるとも述べた。

 ただ、いきなりデジタル化を志向したわけでないようだ。「四国の片田舎にある当行にとって来店客の減少は経営環境の悪化であり危機」(執行役員総合企画部長の長田浩氏)だったといい、直近3年間の中期経営計画(中計)では、本店に集約可能な支店業務の洗い出しと移管、文書管理センターでの集中管理化など、業務の効率化を徹底的に推し進めた。

Chat Co-Robotにより口座開設の事務作業は手作業に比べて7割削減されるという
Chat Co-Robotにより口座開設の事務作業は手作業に比べて7割削減されるという

 その途上でFinTechに代表されるデジタルビジネスの潮流が拡大し、中計では特に、行員の手作業において過大な負荷だった紙ベースの事務処理の削減に注力した。あらゆる業務とそのプロセスを見直し、テクノロジで省力化可能な業務と人が担うべき業務を切り分け、ビジネスプロセスを再構築した。「危機をむしろチャンスだと意識を変え、テクノロジを使えば、地方から世界に広がる可能性も開けてくる」(長田氏)

 2018年に開始した中計では、その方針に「デジタル・ヒューマン・デジタル(DHD) バンク」の実現を掲げる。そのコンセプト自体はアクセンチュアが提唱しているもので、「デジタルを生かす部分と人にしかできない部分を組み合わせた付加価値の創造と生産性向上の両立」(アクセンチュア 金融サービス本部 マネージング・ディレクターの粟倉万統氏)という。竹内氏は、同行の方針にこのコンセプトが近いことや、開発組織を持つアクセンチュアの戦略実行力に期待し、パートナーに選んだと述べた。

「デジタル・ヒューマン・デジタル(DHD) バンク」に向けた構想
「デジタル・ヒューマン・デジタル(DHD) バンク」に向けた構想

 Chat Co-Robotは、前の中計での成果をもとにDHDバンクの実現していくプラットフォームとなる。システムとしては、アクセンチュアが提供する「Accenture Connected Technology」上で稼働し、タブレット端末のチャット機能で来店客と対話しながら、顧客の求める事務処理を行う。2018年10月に、まず口座開設の3つの業務を対象として、3店舗で稼働を開始した。2019年6月までの実質的に3つのフェーズを通じて計26業務をChat Co-Robotで行えるようにし、毎月10店舗ペースで拡大させながら2020年に全店への展開を終える計画だ。

 総合企画部 課長の石川秀典氏によれば、Chat Co-Robotの開発では、再構築したビジネスプロセスを踏まえ、チャットロボットソフトウェアと顧客の対話を前提にゼロベースでアジャイル手法による開発を実践している。特にこだわるのはユーザーインターフェース(UI)であり、LINEのような多くのユーザーが慣れ親しんでいるUIと対話プロセスの設計と改良を繰り返した。

約1年ほどでChat Co-Robotの導入展開を一気に進める
約1年ほどでChat Co-Robotの導入展開を一気に進める

 現時点では、Chat Co-Robotを利用する前に顧客の印鑑登録が必要になるが、例えば新規の口座開設に要する時間は、従前の平均45分から15分程度(タブレットでの入力に6分、通帳発行までに約10分)へ大幅に短縮された。以前なら窓口担当の行員が必要な書類を用意して、顧客に説明しながら情報を記入してもらう。記入を終えると、事務処理担当の行員が作業をしていた。人手に頼ったそのプロセスのほとんどが省力化され、行員は事務作業に追われることなく、じっくりと顧客応対ができるようになった。ここでの業務削減量は70%になると試算している。

 伊予銀行でのデジタル化においてChat Co-Robotは、まだスタート段階の成果に過ぎないというが、同行では、目標としてChat Co-Robotを生かした店舗の変革や新たなサービス開発、異業種とのエコシステム連携といった広がりを構想する。例えば、店舗の変革では現在の受付カウンターを境に行員と来店客が向き合うようなレイアウトから、Chat Co-Robotのタブレットを中心に相談スペースを配置して、来店客の目的に応じた応対がしやすい店舗づくりに変えていく。

店頭に設置したタブレットのChat Co-Robot利用イメージ。まずは定型の事務処理にまつわる顧客接点のデジタル化に着手している
店頭に設置したタブレットのChat Co-Robot利用イメージ。まずは定型の事務処理にまつわる顧客接点のデジタル化に着手している

 また、Chat Co-Robotや勘定系システムと接続するためAPI、ロ内部事務効率化のためのロボティックプロセスオートメーション(RPA)といった開発の内製化も進める。既にRPAでは10人のチームを組成しており、具体的な開発プランの検討に着手しているという。

 竹内氏によれば、デジタル化への取り組みにおける具体的なゴールは設定していないとのこと。まずは従来の仕組みを変革し、その過程で生じるさまざまな実績を次に生かして新しい同行の姿を具現化させていきたい考えだ。この点はアクセンチュア側も同様といい、「伴走しながら変革の実行を支援する」(執行役員 デジタルコンサルティング本部 統括本部長の立花良範氏)

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