Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「re:Invent 2018」が米国ラスベガスで現地時間11月26日から開催されている。会期3日目となる28日の基調講演に最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏が登壇し、3時間にわたってストレージ、セキュリティ、ブロックチェーン、機械学習、オンプレミスの5つをテーマに、20以上の新機能を発表した。
AWS 最高経営責任者のAndy Jassy氏
(新機能の詳細はZDNet Japanの翻訳記事もご覧ください。)
Jassy氏は冒頭、会場中に多数設置された大型ディスプレイに無数のエンタープライズ顧客やエコシステムパートナーのブランドロゴを投影、来場者にクラウド市場での同社の圧倒的優位性を強烈に印象付けた。2018年第3四半期売上高は前年同期比46%増の約270億ドルとも報告、「成長率を見れば鈍化したかのように映るが、より成長率が高い競合とはそもそもベースの金額が異なる(競合は少額)ので、われわれはどこよりも巨大な成長を成し遂げている」と強調した。
加えてJassy氏は、AWSに“口喧嘩”を仕掛けることで有名なOracle 最高技術責任者(CTO)のLarry Ellison氏へのささやかな反撃を繰り出した。Errison氏は、ここ数年の自社イベント「Oracle OpenWorld」や決算発表などの場で、事あるごとにAWSを引き合い出し、Oracleのデータベースやクラウドサービスがいかに素晴らしいものであるかを力説している。
Jassy氏は、大型ディスプレイにIDCのクラウド市場シェア調査の最新レポートを引用して表示した。AWSが51.80%と過半数を超えるトップシェアを強調した上で、Ellison氏の名前は口にせず、「その他大勢」という部分にErrison氏の顔写真を映し出した。エンタープライズITベンダーの老舗と新興のトップが“口喧嘩”と“グラフィカルデータ”で合戦する様子は、クラウドネイティブやクラウドファーストが当然の若い開発者やエンジニアにとって新鮮に映ったようだ。
事あるごとにAWSを“口撃”するEllison氏のOracleも、マーケットシェアでは「その他大勢」に過ぎないと強烈な皮肉で反撃した
発表された20以上の新機能が関係する5つのテーマは、Jassy氏が「“ビルダー”が今本当にやりたいことをできないでいる問題」という。余談だがJassy氏は終始、開発者やエンジニアなどを“ビルダー”と総称した。ここでのZDNetの考察は後日公開する翻訳記事で改めて紹介したい。
ストレージでは、「データがビジネスの石油」との認識が企業に広がり、増大の一途をたどるデータへの対応にますます追われているとした。AWSはS3ストレージを中核に40以上のサービスを既に展開し、オブジェクトストレージでは、複数リージョンによる「アベイラビリティゾーン」を使った高可用なデータレイクの構築においてトップクラスにあるとJassy氏は主張する。
ここでは、主に3つの新機能「Glacier Deep Archive」「Amazon FSx for Windows File Server」「Amazon FSx for Lustre」を発表した。特にGlacier Deep Archiveは、これまでテープストレージに保管されてほとんど死蔵されていたアーカイブデータの機械学習などへの活用にフォーカスしている。「実質的に月額1テラバイト当たり1ドル」(Jassy氏)という価格設定で会場を沸かせ、ほとんどのIT管理者にとって規制要件などからせざるを得なかったテープバックやアーカイブのコールドデータ管理のタスクを価値ある仕事に変えることを志向したかのようだ。
何年も死蔵されるテープアーカイブのデータは、「ユーザーにコストやメリットを提供すればクラウドにする」とJassy氏
Amazon FSx for Windows File Serverは、ネイティブのWindows File Serverのマネージドサービスという位置付けで、Amazon FSx for Lustreはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)で使われるオープンソースのファイルシステム「Lustre」をS3ストレージでサポートする形となる。
「多様化するワークロードやデータ利用ニーズ(セキュリティとパフォーマンス、柔軟性など)へリレーショナルデータベースのような古い仕組みのままでは対応できない。AWSの考えは、ユーザーが必要とするワークロードごとに最適なサービスを用意し提供する方法だ」とJassy氏は述べた。
セキュリティでは「AWS Control Tower」「AWS Security Hub」を発表した。前者は多数のAWSアカウントに対して一元的な統制を確保し、後者は26社のパートナーとも連携してAWS環境のセキュリティ評価や可視化を行う。
クラウドベースの機能や用途が広がるにつれ、ユーザーの属性も多様化しているとJassy氏。特に上述の若い世代を“第2のビルダー”と呼び、「彼らが不安なくやりたりことに専念できるガードレールが必要だ」(Jassy氏)として、ここではAWSのベストプラクティスに基づくガイダンスをユーザーに提供するとしている。
AWS Security Hubのプレビューデモ画面。AWS内部のセキュリティ状態をひと目で把握できるようにする