チェスプレーヤーであるGarry Kasparov氏はIBMのチェス専用スーパーコンピュータ「Deep Blue」と対戦し、歴史に残る敗北を喫した。とはいえ同氏は、人工知能(AI)の興隆が必ずしも悪いことだとは考えていない。
1997年に行われたKasparov氏とDeep Blueの対戦は、チェスの6番勝負で現役のチェス世界王者がコンピュータに敗れた初めてのケースとなった。これは、コンピューテイングの進化における重要なマイルストーンと見なされており、多くの人々はAIが人間の能力を急速に凌駕(りょうが)しつつある不吉な兆候だと捉えている。そしてこの20年を通じて、AIについての、特に職場の人間を置き換えるコンピュータの能力についての懸念が高まってきている。
Kasparov氏は筆者に対して、歴史に残るあの対戦について「過ぎてしまったこと」だと語る一方で、その1年前にはDeep Blueに勝利していた点にも言及した。
同氏は、ポルトガルのリスボンで開催されていた「Web Summit 2018」で米ZDNetに対して、「対戦を分析すれば、Deep Blueは現代の基準でみて感嘆すべきプレーヤーではなかったと分かるはずだ。おそらく、プレーヤーとしては私の方が優れていたはずだ」と述べたうえで、「だが、そんなことなど誰が気にするというのだろうか?すべては試合に勝つことであり、(二人零和有限確定完全情報ゲームにおいては)ミスを最小限に抑えることなのだ。そして機械はプレッシャーの下で耐え抜くことに長けている」と述べた。
とは言うものの同氏はこの対戦によって、人間と機械の対戦にはまったく将来性がないと認識するに至ったという。
同氏は「機械はどんどん強くなっていくだろう。というのも、人間はどこかでミスをおかす一方、機械は着実な手を重ねていくためだ」と述べた。同氏の敗北以降、人間とコンピュータの力の差は広がるばかりだ。チェスの世界において、トップクラスのチェス用コンピュータと、現在のチェス王者であるMagnus Carlsen氏との差はいまや、「フェラーリとウサイン・ボルト氏の差に匹敵する。つまり、勝負にならないのだ」と同氏は指摘した。
Kasparov氏は現役のチェス王者として初めてコンピュータに敗北を喫したプレーヤーだが、今後さらに多くの人が同じ道をたどるだろう。それにもかかわらず、同氏はAIに対して驚くほど楽観的な見解を有している。
同氏は「AIはツールであり、テクノロジだ。ユートピアの先駆けでも、ディストピアの先駆けでもない。また、魔法の杖でもなければ、ターミネーターでもない。ツールだ」と述べ、「結局のところ、未来はツールをどのように使うのかによって左右される」と続けた。