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加速する中国のデジタル化、日本に脅威なのか

田中克己

2018-12-18 06:30

 富士通総研(FRI)が11月28日に開催した「加速する中国のデジタルイノベーション」シンポジウムは、中国の取り組みを紹介する一方、それが日本にとって脅威になるのか、ビジネスチャンスになるのかなど、興味深い内容だった。

 開会のあいさつに立った香川進吾社長は「デジタル化の波がビジネスや生活を変化させている」とし、中国では11月11日の独身の日、ネット通販取引に6億人超が参加し、1日で総額2135億元(約3兆5000億円)の売り上げがあったことを報告する。週間に配達した小包も10億個超になり、これらを支える「世界最強の決済システムがスムーズに動いた」と、その先進性を紹介した。

 その事業を担った阿里巴巴集団(アリババグループ)の游五洋サプライチェーン研究センター責任者・エグゼクティブ専門家は「日本からは大きなプラットフォームが出てこないだろう」と予想し、日本の中小企業に対しては、巨大IT企業らのプラットフォームを使って世界にモノを売ることを勧める。確かに、そうしたプラットフォームを手掛けるのは、中国のBAT(百度〈バイドゥ〉、阿里巴巴、騰訊〈テンセント〉)や米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)といった巨大IT企業に集約されつつあるように思える。

 だが、2004年創業のFacebook以来、巨大IT企業が生まれていない。次世代を担う新しい形のスタートアップ企業が生まれていないわけではない。巨大IT企業らが買収し、取り込んでしまうこともある。2018年10月時点、企業価値10億ドル以上のユニコーン企業は280社強あり、最も多いのが米国の135社、次いで中国の84社、英国の14社、インドの14社、ドイツの7社などと続く。日本はたった1社だ。

課題は日本のエコシステムに

 中国のベンチャー企業を調査研究しているFRI経済研究所の金堅敏上席研究員は「なぜ、日本に阿里巴巴が出てこないのか」と、起業を取り巻く支援の違いを指摘する。一つは、シリコンバレーのようなエコシステムがないこと。「日本にもあるが、イノベーションだけでは足りない。アイデアや特許、IPO(新規株式公開)などが重要」(金氏)。ベンチャーキャピタル(VC)など民間ファンド、政府ファンド、エンジェルといった投資家も少ない。

 中国ではBATも投資に加わる。結果、成功したスタートアップがユニコーンになり、巨大IT企業へと進化し、彼らがスタートアップに投資するという好循環の仕組みがあるという。一方、産業革新投資機構の立ち上げが失敗した日本は、政府ファンドの難しさを露呈した。大富豪など個人投資家も少ない。

 起業数の大きな違いもある。金氏によると、中国は毎月約50万社が設立されているが、日本は年間でわずか約15万社だという。理工系の卒業数も、中国では年に約100万人が輩出さているが、日本は11万人程度である。問題は人材が少ないだけではない。大企業に人材も技術も集まっていること。金氏は「ベンチャーのスケールアップの仕組みがいる」とし、大企業の技術者が一度、外に出てビジネスを立ち上げて、再び大企業に戻す策などを提案する。

 フリーマーケットアプリ大手のメルカリで研究開発を統括する木村俊也氏はこの10月に新卒社員52人を採用し、うち47人が日本国籍以外だったことを明かした。海外展開に力を入れているからで、米国現地法人の社長にはFacebook創業メンバーを迎えたという。木村氏は「起業数が少ないし、人の流動性も低い。ゴールまで導いてくれるメンターもいない」と、日本のスタートアップを取り巻く課題を指摘する。

 阿里巴巴の游氏は「(自社は)現場に権限を持たせるし、失敗を許す文化もある」と話す。成功する確率は10分の1程度で、失敗したらグループを解散し、別のグループに移るそうだ。FRI経済研究所の趙瑋琳上級研究員も「中国は新しいものを取り入れるが、日本はまずそのメリットを考える」とし、人工知能(AI)活用を事例に挙げる。中国はAIで新しいことが可能になると前向きだが、日本は仕事が奪われるといったネガティブな書籍が数多く発行されているとし、ポジティブな考え方を説く。

注視する「中国製造2025」

 中国は消費者市場をターゲットにするスタートアップが数多く生まれたが、これからはモノ作り強化にも乗り出すという。ドイツのインダストリー4.0のように製造のデジタル化を推し進めて、世界の製造大国を目指す「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ)」だ。「中国はコピー天国から知的財産権(Intellectual Property Rights:IPR)大国に変貌した。コピーは恥なので、自分で開発することにした」(FRIの金氏)。

 例えば、国際特許申請は米国に次ぐ規模になったという。その中で、ロボットに関する特許を見ると、2000年時点の特許数は、日本の56%に対して、中国はわずか1%だった。ところが、2011年になると、日本は21%に低下する一方、中国は25%に増加する。産業の競争力を付けることで、大企業もスタートアップも育っていくエコシステムを形成できるという。

 だが、中国製造2025を推進する1社と見られている華為技術(ファーウェイ)の製品やサービスを排除する動きが出てきた。現時点、どうなるか分からない。FRIの講演はこの問題が表面化する前だったので、議論の対象にならなかったが、筆者は日本製プラットフォームのニーズが高まるのは時間の問題と見ている。海外に大きく依存するのは危険だ。人材育成と次世代を担うスタートアップ企業の支援が欠かせない。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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