本連載は、元ソニーの最高情報責任者(CIO)で現在はガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム グループ バイス プレジデント エグゼクティブパートナーを務める長谷島眞時氏が、ガートナーに在籍するアナリストとの対談を通じて日本企業のITの現状と将来への展望を解き明かしていく。
第4回のテーマは、「デジタル時代におけるIT部門の立ち位置はどう変化するのか」だ。IT部門は「コストセンター」と表現されることが多く、IT部門に対する評価が厳しくなることもある。特に経営層からはコストの削減を求められることが多い。ただし、ビジネスとITの結びつきが密接になった今、単に業務の効率化やコストの削減を担うだけの部門ではなくなってきたことも間違いない。デジタル時代のIT部門の立ち位置はどう変化していくのか――。ITファイナンシャルマネジメントやIT部門の評価の分析などを担当するシニア ディレクターの片山博之氏に話を聞く。
他社の動向を気にしすぎる日本企業
長谷島:担当のリサーチ領域を教えてください。
片山:ITコストの最適化やIT投資の管理、あるいはIT部門の価値をどう測るか、どう見せるかが中心です。お客さまには、「ITファイナンシャルマネジメントをカバーしている」と説明しています。
長谷島:CIO(最高情報責任者)やIT部門とお付き合いしていくと、上位3、4位までの重要課題のうちの一つに、必ず投資・経費のマネジメントが挙げられます。そこで残念に感じるのは、「いかにコストダウンをするか」というテーマになりがちな点ですね。もちろん、それも課題ですが、単にコストダウンの話だけではないでしょう。昨今のIT投資や経費管理の潮流や方向性はどんな状況ですか?

ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 CIOリサーチグループ シニア ディレクターの片山博之氏。多くの企業ユーザーに対し、ITのビジネス価値を把握する方法、ITコストを最適化する方法、IT組織の価値を経営者に認めてもらう方法に関するアドバイスを行っている
片山:最近は「デジタルビジネス」という言葉が出てきていて、IT部門自身がビジネス上の価値を出していこうというのが強いですね。ただ、今のITコストを削減しなければいけないという意識もいまだに強くあります。
お客さまからの問い合わせも「どうやってコストを削減すればいいのか」という内容が多く、特に「既存のシステムの維持費をどうすればいいのか?」ということが聞かれます。新しい分野へ向かうには、まずコストを浮かさないと予算を割くことができません。それをどうすればいいのかという話がいまだに多いですね。
長谷島:その点に日本のIT部門やCIOの皆さんが悩んでいるようですね。ところでグローバルの視点から、日本企業はIT費用のマネジメントに関して何か特殊性がありますか?
片山:海外の方は、日本よりも細かくデータを見るということが進んでいます。ITコストをマネジメントする専任担当者もいます。日本のIT部門は一人が多くのことを担当しているので、ITコストだけを見ているわけではありませんから、コストを細かく管理しているところは少ないですね。例えば、「ITコストに含まれるITとはどこまでの範囲を指すのか、他の企業はどうですか?」など、他の企業を見て決めるという考え方が中心です。
それに海外は、自社のITコスト削減に対して、どこに無駄があるのか可視化した上で、無駄な部分をどう省いていくかに注力しています。企業によってコスト構造もビジネスの悩みも違いますから、他を見てそれに合わせようとするには無理があります。もちろん、他社をベンチマークしたい場合は、調査会社の定義に基づいて合わせることで参考にすることはできるでしょう。それでも社内でどう管理して最適化するかは別の問題だと認識した方がいいでしょう。
長谷島:他社と比較したがるのは日本企業の特徴でしょうか? そういう姿勢をどう思いますか。
片山:「他社事例がほしい」「他社がどうしているかを知りたい」という問い合わせは、すごく多いですね。多くの企業のやり方に追従することが安心感につながっているのでしょう。ただ、本当にそれで最適化できるかというのは違うと感じます。
長谷島:「あの会社がしているからわが社もまねしよう」というマネジメントには、素朴に疑問を感じます。そんなに自信のないマネジメントでいいのか、と思ってしまいますね。
片山:アンケート調査では、デジタルビジネスのプロジェクトを実施しようという企業が約7割に上ります。しかしふたを開けてみると、「他社がやろうとしたから自分たちもやらなければまずい」という姿勢が多く、本格的に取り組んでいるところはまだ少ないようです。