展望2020年のIT企業

オールドSIerからニューSIerに転換する方法

田中克己 2018年12月25日 06時30分

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 「オールドSIerからニューSIerへ転換する」――。従業員約110人のスタイルズが、顧客から直接、システム開発(SI)案件を受注する仕組み作りに成功した。カギは自社開発したサービス商品を積極的に広報宣伝すること。その専任の広報担当者も雇う。同社の取り組みから脱下請けの有効策が見えてくる。

競争優位性の確立と生産性の向上を図るスタイルズ

 2003年に2社を合併して誕生したスタイルズの梶原稔尚社長は「競争優位性の確立」「生産性の向上」「働きがいと働きやすい仕事」の3つを経営方針に掲げている。伝統的なSI会社の多くは、競争優位性がなく、生産性が低いなど、真逆の環境にあるからだ。

 例えば、多重下請け構造のSI市場における中小SI会社は、ユーザー企業ではなく、大手SI会社に営業する。しかも、経営者らは「当社は何でもできます」と売り込むが、得意技や得意ソリューションが分からない中小SI会社に何を頼めばいいのだろう。結果、単価が安いか、高品質なのか、などが発注の基準になってしまう。

 だが、「どこよりも安くする、品質を良くする」は、競争優位にはならない。「同じことをしていたら、価格や規模の競争に巻き込まれて、負けてしまう」(梶原氏)

 その答えが競争優位性のあるサービス商品を作り出すことだ。最初に考えたのは、保守が終了するオープンソースソフトウェア(OSS)のソースコードを自動で書き換える「レガシーJavaリニューアル・サービス」だ。「古いシステムをどうしたらいいのか悩んでいる企業は少なくない」(梶原氏)という。そんなシステムをよみがえらせるサービスともいえる。

 メインフレームやオフコンをオープンシステムに移行するサービスもあるが、ここは伝統的なSI会社が数多く手掛けており、中小SI会社が出る幕は少ない。そこで、2000年頃に稼働したオープンシステムを自動変換するサービス作りに力を入れた。レガシーJavaに続いて、ウェブアプリ開発基盤「Apache Struts」を「Spring MVC」に自動変換するサービスやアプリ開発基盤「Flex」で構築した業務システムをHTML5に自動変換するサービスなどを開発した。

 ちょうど、クレジットカード情報や個人情報の流出などで、Strutsの脆弱性が発見されたこともあり、Spring MVCへの移行サービスのセミナーには多くのIT部門や技術者らが参加したという。他社が開発したシステムで、仕様書がない状態の保守サービスを引き継ぐサービスも開発した。

 2017年早々、これらサービス商品の宣伝活動を本格的に始めた。専任の広報担当者1人を採用し、1カ月に1回以上のペースで、ニュースリリースを出したり、セミナーを企画したりしている。商品の紹介から注文を受け付けるウェブサイトも用意し、大手SI会社を含む顧客から注文を受け付ける。結果、新規ユーザーの100%がウェブサイトから開拓したものになったという。非上場の中小SI会社が広報部門を設置するのは珍しいこと。

利益なき繁忙ビジネスに終止符を

 サービス商品と広報宣伝は、SI業界における下請けから脱する有効な手段にもなる。下請けの中小SI会社は大手SI会社との関係を長く続けたいと考えるのは当然なこと。単価の交渉や値引き要請もあるし、リスクを押しつけられることもあるだろう。「赤字なるかも」と分かっていても、断れないこともあるだろう。取引停止を恐れてだ。だが、そんな利益なき繁忙ビジネスが長続きするはずはない。

 下請けだったスタイルズは、2017年初めから採算性などのリスクのある案件を断っているという。炎上プロジェクトもだんだんなくなってもいる。自前のサービス商品をそろえてきたからで、今後も年に2つのサービス商品を開発し続ける計画。老朽化システムを衣替するものと、業務システムを新しく開発するためのもの。例えば、サーバ仮想化の次の技術と注目を集めるコンテナ技術だ。「ビジネスになるのは2、3年後になるが、今から取り組めば大きくリードできる」(梶原氏)。

 OSSの取り扱いも強化する。約4年ほど前から日本市場でOSSを広める活動を始めており、開発元とパートナー契約し、ユーザーに告知したり、サポートしたりするビジネスだ。ファイル共有ソフト「owncloud」など販売実績を上げているOSSもある。梶原社長は、新しいOSSを見つけると、メールを打つ。返事が来るのは20件のうち1件程度だが、このビジネスも広報宣伝で伸ばしていく考えだ。

 梶原社長の今の悩みは教育と採用だ。特に教育に時間を取ると、残業が増えていくこと。「忙しいときに教育時間に掛かってしまう。働きがいと働きやすさを両立する方法を考えている」。その答えは生産性の向上になり、有効な策はやはりサービス商品になる。もちろん、待遇もある。2018年度(3月期)の売り上げは約15億円、経常利益約5000万円を見込んでいるが、「経常利益率4~5%でいい。年末賞与などで還元する」(梶原社長)。時短労働も導入する。実は、技術者の約3割が女性ということもあり、子どもが小学3年生まで9時30分から16時30分の勤務を認めているという。

 59歳の梶原社長は「パッケージソフトベンダーではないし、伝統的なSI会社とも異なるニューSIerになる」と強く決意する。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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