F1王者のメルセデスとハミルトン氏が語る“データ・ドリブン”

末岡洋子

2019-01-08 07:00

 自動車レースのFormula 1(F1)において情報技術は欠かせない。F1で2018年のチャンピオンに輝いたMercedes AMG Petronas Motorsportのデータ戦略はどのようなものか? 同年ドライバーズチャンピオンとなったLewis Hamilton氏、それに同チームの最高経営責任者(CEO)兼チームプリンシパルを務めるToto Wolff氏、ITトップのMatt Harris氏が2018年12月末、技術パートナーのHewlett Packard Enterprise(HPE)のイベントで語った。

Mercedes AMG Petronas MotorsportのToto Wolff氏、Lewis Hamilton氏、Matt Harris氏(左から)
Mercedes AMG Petronas MotorsportのToto Wolff氏、Lewis Hamilton氏、Matt Harris氏(左から)

データ分析からシミュレーションまでを3分の1に短縮

 Mercedes AMGとHPEは2018年6月に提携を発表、HPEは公式のチームパートナーとしてデータの収集、分析などの技術を提供している。複数年の契約で、HPEはエッジからクラウドまで包括的なソリューションを導入しており、パネルではその一部が明かされた。

 テストの実施回数や走行距離が厳格に決まっているF1では、データの活用、運用の効率化が重要になる。HPEとの提携ではそれを支える技術を徹底追求した。ITを率いるHarris氏は、「時間はわれわれの通貨」と言い切る。

 システムは、HPEのコンサル部隊「HPE Pointnext」が中心となって構築した。HPEのエッジソリューション「HPE Edgeline」などを利用して、F1マシンにある約200のセンサからデータを収集し、エンジニアに数十億のデータポイントが送られる。Hamilton氏によると、センサから収集するデータの量は「500から600GB、(テスト走行で用いる)テストカーでは600から700GB」とのこと。ここから何が重要かを見る。Wolff氏は、「速度、つまりはデータをダウンロードし、アセスメントし、整理して正しい量のデータを抽出することが重要」と述べる。

 データを処理し、改善点を洗い出してシミュレーションするというサイクルを回す上で重要な役割を担うのが、ハイエンドサーバ「HPE Apollo 6500」だ。中央のデータセンターに設置されており、これまで3日かかっていたファクトリー(F1マシンの開発・製造の施設)でのシミュレーション作業を1日に短縮するのに成功した。

 Harris氏は次のようにいう。「レース週末の後、適切な学習と理解に基づいて最適化したものを(次のレースが始まる週末前の)木曜に届けることができる。次の週に何からスタートするのかという点で、(3日が1日に短縮されたことは)大きな違いだ」

 Hamilton氏も「時間との戦い。できるだけ速くデータの分析、シミュレーション、回答、実際の車に変更を適用するというサイクルを回す必要がある」と述べる。新しいシステムの下でこのサイクルが短くなり、木曜の午後にはドキュメントをもらい、金曜に実際に車に乗って試す。実際、以前のように3日を要していたら「2018年は(優勝は)妨げられていた」とも述べた。「常に進化している。動的でなければならない」(Hamilton氏)

 Harris氏によると、他のワークロードについても4週間要していたものが1日になるなど、総じて時間の短縮が図れているという。Wolf氏は、「F1はデータが重要。データの世界、サイエンス、車の中にいる運転手が融合する。これは簡単なことではない」と語る。

 こうした取り組みにより、2018年初に比べるとラップタイムは2秒改善したとのこと。Hamilton氏は「開発サイクルとアップグレードが大幅に短縮された結果」とチームをたたえた。

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