ZDNet Japan Summit

常識と尺度を疑え--“異才”が語るデジタル変革の真実

石田仁志

2019-01-09 06:00

 ZDNet Japanは2018年12月4日、都内でプライベートセミナー「ZDNet Japan Summit 2018--攻めのIT経営を実現する4つのトレンド」を開催した。企業がデジタルを活用して新たな価値とビジネスを創出していくために必要な「攻めのIT」のアプローチについて、戦略・開発・インフラストラクチャ・現場改革の4つの視点から方法論を提示した。

 本記事では、アバナード デジタル最高顧問の松永エリック・匡史氏とDataRobot チーフデータサイエンティストのシバタアキラ氏を招いて実施したセッション「常識という尺度を疑え!型破りの異才が語るデジタル戦略の神髄とは」の模様を紹介する。

データやAI、テクノロジを本当の意味でどうビジネスに生かすのかを2人の異才が語り合った
データやAI、テクノロジを本当の意味でどうビジネスに生かすのかを2人の異才が語り合った

 松永氏は、バークリー音楽大学出身のプロのギタリストであり、放送から音楽、映画、ゲーム、広告までを網羅するメディア戦略コンサルティングおよびデジタルトランスフォーマエーションのパイオニアと知られる。大手IT、コンサルファームを経て現在はONE+NATION Digital & Mediaの最高経営責任者(CEO)/プロデューサーとしてデジタル時代のイノベーターとして活動している。アバナードにはデジタル最高顧問としてIT業界の大変革に取り組んでいる。

 シバタ氏は、ニューヨーク大学でのポスドク研究員時代に加速器データの統計モデル構築を行い、ヒッグス粒子の発見に貢献。その後ボストン・コンサルティング・グループでコンサルタントとしてデータ分析業務に従事し、AIニュースキュレーションアプリ「カメリオ」を提供する白ヤギコーポレーションを創業した経歴を持つ。

1周回って落ち着くデータサイエンティスト信仰

 このセッションのテーマの背景には、「デジタル変革」「データ活用」という言葉や概念がビジネスを進めていく上でボトルネックやハードルになっているのではないか――という課題認識のもと、“地に足がついた”形でそれらを理解し、ビジネスで成功していくためのアプローチを探るものである。タイトルにある「常識という尺度を疑え」というメッセージについて、異色の経歴を持つ2人の目には、日本のデジタルトランスフォーメーションがどう映っているのか。

 まず現状把握という点から、シバタ氏がデータサイエンティストの周辺事情を紹介した。“データサイエンティスト信仰”という状況から求人倍率が60倍にもなるなど、いまだ重要な役割を担うと強く期待されている。その一方、「データサイエンティストが来れば会社が良くなる」ということが幻想でもあり、実際には「決してそうではない」という話もこのブームが一巡したところで出てきているという。

 「データサイエンティストが事業会社に行くことで、実際に成功している会社もたくさんあるし、面白い事例もある。ただ、期待されて招かれて入ってみたら、うまくいかずに辞めてしまうことも多い。センシティブなデータを現場側が提供してくれないなど、データサイエンティスト個人の力ではどうにもならないことが明らかになってきた」(シバタ氏)

 また、デジタル変革の現状について松永氏は、コンサルタントとして多方面とコミュニケーションをしてきた経験から、日本企業ではトップが理解していないことを問題視している。

 「IoT(モノのインターネット)やクラウド、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)などのバズワードが先行し、『データサイエンティストを雇えば会社が良くなる』とか、『IoTやRPAやAIを使えば良くなるのでは』と考えてしまう。海外のデジタル変革は、根本的に創造的なビジネスがあり、それを実現するためにいろいろなテクノロジを使う。日本はこの順番が逆になっている」(松永氏)

 続けて、「デジタル変革が企業の課題であることを、まずはトップが考えなければならない。本来は大きな方向性を決め、それを導くような役割をトップが担うべきであるはず。しかし、それを外部のコンサルタントに任せていることもある。そうしてイノベーションを起こそうとする風潮は良くない」と、経営側の姿勢に関する根本的な問題点に言及した。その中で、企業のトップがデジタル変革とどう対峙するかについて、「イノベーションはトップ自らが起こすという意識を持つこと。もう1つはIoTなどの技術は活用するものであり、そこをベースに考えてはいけない。ICT技術はサービスの基盤としての重要度を増しており、SIerとの関係も大きく変えないといけない」と意識改革も促す。

 トップの在り方として松永氏は、米国での「CDO(チーフデジタルオフィサー)」を例に挙げる。米国でCDOは新しいビジネスを創り出すイノベーター的な役割を担い、その結果、この1年でCDOがCEOになるケースが400件以上あるという。「米国では、今までのようにCEOが株主の顔色ばかりをうかがうのではなく、新しいイノベーションをCEO自らが起こさなければならないという立ち位置に変化している」とのことだ。テクノロジの位置付けが高まっており、「変革において日本は10年ほど遅れている」(松永氏)との見方である。

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