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課題解決のためのUI/UX

“ユーザー視点”の誤解を解く--ユーザー行動と未来の想像

綾塚祐二

2019-01-16 07:00

 ユーザーエクスペリエンス(UX:ユーザー体験)を重視したデザインでは、さまざまな段階においてユーザー視点からの考察が必要になる。ユーザーを中心に据えた設計方法では、その目標やニーズなどへの理解が重要になるし、ユーザー参加型の設計手法では、どうやって積極的に関わってもらうかということが大切になる。

 ここで誤解されがちなのは、「『ユーザー視点で考える』『ユーザーのニーズを理解する』というのは、単純に『ユーザーの声を聞く・ユーザーの意見を取り入れる』ことではない」ということである。もちろん、ユーザーに直接さまざまなことを尋ねることは必要であるが、その答えをそのまま設計に取り入れるのがいいわけではない(むしろそうしてはいけない)、ということである。今回は、その点を掘り下げていきたい。

ユーザーが「欲しい」もの

 「ユーザーの声」に単純に応えればいいわけではない。これを説明するのに使われる有名なたとえ話として、「自動車の発明以前、馬車を使う人たちに何が欲しいかを聞いたら『より速い馬』と答えるだろう」というものがある(注1)。

 IT系であれば、「iPhoneの登場以前にスマートフォンのようなものが欲しい」と思った人は多くないだろうということだ。人間は多くの場合、普段の暮らしの中で見慣れているもの、扱い慣れているものの延長でしか(少なくともとっさには)発想できない。特に、何か課題や困りごとを抱えていたとしても、それを解決する適切な方法がどんなものか、ということを幅広く考えるのはそう簡単にできるものではない。

注1:この言葉を自動車の大量生産を確立したHenry Fordが発したものとする話も流布しているようだが、Ford本人がそういう意味合いのことを言った/書いたという記録はない。
参考:https://hbr.org/2011/08/henry-ford-never-said-the-fast

 「課題や困りごと」自体にしても、それをユーザーが適切に認識して、適切な言葉で説明できるとは限らない(ましてや、たいていのユーザーはUXやユーザーインターフェース〈UI〉の専門家ではない)。ユーザーに尋ねて返ってきた言葉には真の「課題や困りごと」を見出すための大きなヒントが含まれているだけであり、課題や困りごとそのものではない(かもしれない)。これを認識しておかないと、的外れなプロダクトやサービスを作ってしまう危険性が高い。

 ユーザーから聞き出した「ヒント」に、観察や推論、経験や知識に基づく想像力を加えて、真の「課題や困りごと」、そしてそれを解決する必要で適切な方法に近づくのが、UXデザイナーに求められる重要な役割である。

 同様のことは、アンケートを行う場合などにも気を付けねばならない。アンケートの母数、すなわち尋ねるユーザーの数を増やせば「課題や困りごと」「求められていること」を見いだしやすくなると思っている人も多いかもしれない。むしろ、真に必要な情報は出てきにくく、また、数によりそれを埋もれさせてしまう恐れも高い。多数の答えよりも、少数の答えの方に重要な情報が隠れているかもしれない。聞き方や設問によっても答えは変わってきてしまうということも留意したい。

観察すること

 本連載でも繰り返し強調しているが、UXを考えるに当たって重要なのが「観察」である。ユーザーがうまく言語化・認識できていないことでも、意識的・無意識的な動作にそれは現れているかもしれず、丁寧に観察することで発見できるものも少なくない。観察すべきは実際の作業・生活の様子などには限られず、ユーザーに質問した際の答える様子や、雑談に近いような話の様子なども含まれる。

 観察と一口に言ってもいろいろあり、先入観などをなるべく挟まず記録すべきことをきっちり客観的に記録するというタイプのものもある。しかし、UIやUXのデザインにおける観察は、よく考えたり想像したりしながら行わねばならないタイプが主である。

 そうした観察では、よく観て、よく聞くに当たって、まずは何に注目すればいいかから考えねばならない。そして、見逃す・聞き逃すべきでないことにいかに気付き、捉えるには、練習と経験が必要である。一度の観察で捉え切れなくとも、繰り返し観察することが可能であればその中で見つけられればいいし、ある観察で気にかかった部分は次の観察で詳しく見ればいい。

 「気にかかる」ということは、多くの場合、何かが自分の想像と違うか、あるいは全く想像していなかったことがある、ということである。「何が」「なぜ」違うのか、あるいは「何を」「なぜ」見落としていたのかを考えることは、「注目すべきところ」を見つけるのにつながるのはもちろんのこと、ユーザーについてより適切な想像を行う(頭の中に適切なユーザーのモデルを構築する)ための訓練になる。

 ユーザーの行動が想像の通りだったとしても、「なぜ」そういう行動をするのかよく分からないということもある。そのような場合は、どういう状況を観察すれば、あるいはユーザーにどういう尋ね方をすれば、その理由に近づけるのかを考える必要がある。そして得られた結果や回答をもとに新たな「想像」を行い、次の観察でそれを確認するというプロセスを踏み、ユーザーに対する理解を深めてゆく。

 UIの細かな部分の設計にも、もちろん観察が重要である。デザイナーの山中俊治氏(現・東京大学教授)が、多くの実験と観察をもとに自動改札機のアンテナ部分の傾きを作り出した事例は有名である。そのときのことをつづった文章の中でも(認知科学を専門とする友人の言葉として)「たくさんの被験者を使う必要はない、実験機を作って丁寧に観察すれば数人の被験者でも、使い勝手の大半は解決できる」と書かれている(注2)。

注2:山中俊治の「デザインの骨格」から「あらためてSuicaの話でもしようか」。書籍『デザインの骨格』(日経BP)にも収録。

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