印TCSが日本からスタートさせたデジタル変革施策の狙い

國谷武史 (編集部)

2019-01-21 07:00

 インドのITサービス大手Tata Consultancy Services(TCS)は、2018年11月30日に、顧客企業のデジタル変革を支援するグローバル施策「TCS Pace」を発表、その活動拠点となる「TCS Pace Port」の最初の施設を日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)の東京本社に開設した。同社にその狙いなどを聞いた。

Tata Consultancy Servicesが日本を最初として開設した「TCS Pace Port」の協働ラウンジ
Tata Consultancy Servicesが日本を最初として開設した「TCS Pace Port」の協働ラウンジ

 TCS Paceは、既存ビジネスの課題解決や新規ビジネスの創出を目指す顧客企業と、TCSの持つ知見やノウハウ、研究開発の成果などを融合させる“協働”のイニシアチブという。TCS Pace Portは、顧客と同社あるいは学術機関やスタートアップ企業が実際に集い、デザインシンキングやテクノロジ体験など通じて、顧客の目標実現に向けたさまざまな活動を行っていく場所と位置付ける。日本TCSで専務 チーフデジタルイノベーションオフィサー(CDIO)を務める中村哲也氏は、「“Pace”には顧客のデジタル変革への歩みに応じてスピードを合わせる“ペース”の意味があり、Pace Portは目標実現への“船出”の場の意味を込めた」と話す。

 2018年4月に就任した中村氏は、1988年に旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行し、国内外で営業や経営企画、システム導入などを担当。その後、GEジャパンで法人金融や法人営業で事業提携などを手掛け、産業向けIoTプラットフォーム「Predix」の日本での事業開発などを主導した経歴を持つ。自身のキャリアについて、「“デジタル変革”の姿を具現化してきたと言えるかもしれない」と振り返る。

 TCSの旧日本法人と三菱商事のIT子会社が合併して2014年に発足した日本TCSは、さまざまな産業分野の数多くの大手企業を顧客に抱える。3000人以上の技術者を有する日本企業向け専門のサービス提供部門を中核としたオフショア開発が主力事業だが、TCS Paceの立ち上げは、多くの顧客企業が直面しているというビジネスのデジタル変革における支援を目的としている。

 昨今では、事業戦略に“デジタル変革”を掲げるIT企業が少なくない。TCSも同様に顧客のデジタル変革の支援を掲げるが、ここにはTCS自身のデジタル変革という意味合いも含まれるようだ。

 中村氏は、「日本TCSの発足時からTataの企業文化と三菱商事の企業文化、言い換えればインドを中心とするグローバルと日本の企業文化の融合に注力し、ようやくその形が整ってきた。次の段階に向けて、TCS本社が新しいグローバル施策の最初の拠点を日本に設けた意義は大きい」と話す。日本TCSは、Tataや三菱商事の出身ではない中村氏を外部から起用し、デジタル変革を担う専任組織としてビジネスイノベーション統括本部を設立。事業を新たなステージに引き上げる時期に直面している日本法人が“試金石”となり、TCS自体のグローバル変革も目指すケースとなる。

「TCS Pace Port」ではIoTやVR/AR(仮想/拡張現実)などテクノロジ体験や概念実証(PoC)の場も設けている
「TCS Pace Port」ではIoTやVR/AR(仮想/拡張現実)などテクノロジ体験や概念実証(PoC)の場も設けている

 TCSは、顧客企業が直面するデジタル変革の潮流を「ビジネス 4.0」あるいは「第4次産業革命」と表現する。デジタル技術やさまざまなパートナーとのエコシステムを通じて新しいビジネスに変えていくという文脈で、そのイニシアチブが「TCS Pace」、実際の行動の場が「TCS Pace Port」になる。近年は多くのITベンダーも同様の取り組みを進めているだけに、決して目新しい動きではないが、中村氏は「私の経験で言えるのは、デジタル変革の本質は“ビジネスを変える”ことにある。ビジネスをどのように変えていくかであり、そこでどのようなテクノロジを活用するかが“デジタル”」とし、TCS Paceがテクノロジを主目的にした取り組みではないと強調する。

 例えば、米国の資材メーカー顧客は倉庫内の膨大な在庫の管理を効率化したいという課題を抱え、TCSでは、ドローンを利用して資材に貼り付けたバーコードを読み取り、在庫管理のシステムに情報を転送することで、作業担当者の負荷を低減する方法を提案したという。一見すると、ドローンの利用はデジタル変革“らしい”方法に映る。一方でRFIDタグによる管理など、既に導入実績が豊富な方法を用いれば済むかもしれない。

 ビジネスイノベーション統括本部デジタルトランスフォーメーション本部 デジタルエバンジェリストの熊谷雅朗氏は、「このケースで言えば、RFIDなどの設備を倉庫内に導入しようとすると、施設改修を含め多くの時間や費用が必要になってしまう。顧客はリアルタイム性の高い情報伝達の実現も希望していたため、現行のバーコードを読み取る作業をドローンに置き換える方法により、容易に目的を達成できるようした」と話す。なお、棚などが密集する狭い倉庫内でドローンを安定して制御する技術面に、TCSの研究開発の成果を活用しているという。

「TCS Pace Port」の会議室。心理的にアイデア創出などにつながりやすいという配色にしている
「TCS Pace Port」の会議室。心理的にアイデア創出などにつながりやすいという配色にしている

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