課題解決のためのUI/UX

プログラミング言語の変遷に見る開発体験の変化 - (page 2)

綾塚祐二 2019年02月07日 07時00分

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ビジュアルプログラミング言語の弱点と活用

 ビジュアルプログラミング言語の弱点としては、規模が大きなプログラムを開発しづらい、ということがよく挙げられる。理由は幾つかあり、例えば、処理やデータの流れを図示するのは、小規模なうちは分かりやすいが、規模が大きくなり、複雑になってくると急激に分かりづらくなっていくという点がある。

 また、モジュールの種類もある程度以上増えると、結局は文字による名称を用いた管理をせざるを得なくなり、図形などを用いる良さが減じてしまうどころか文字よりもかえって見づらくなってしまう、ということもある。

 逆に、プロトタイピング目的として文字で表すのが煩雑な部分をより視覚的な形で表せるようにしよう、というような研究もある。産業技術総合研究所(産総研)の加藤淳氏による「VisionSketch」は、画像を入出力とするような処理において、対象領域を画像上で直接指定して記述できるシステムである。「Picode」は、文字で記述されるソースコード上の引数として写真を使用できるシステムである。

 このように、文字と視覚的な要素の良いところを組み合わせることで、プログラミングのエクスペリエンスをより良くしていけるだろう。加藤氏らは、プログラミングのための環境と、その環境が提供する体験の設計に興味を持つ人の集まり「SIGPX(Special Interest Group on Programming Experience)」も立ち上げている。

思った通りに動く?

 さて、機械語でも高級言語でも、ビジュアルプログラミング言語でも、プログラムは記述された通りに動く。意図通りに動くプログラムを書くのに苦労する様を表現する「プログラムは思った通りにではなく、書いた通りに動く」という古くからの格言もある。

 ちょっと複雑なプログラムを書いて、それが(試行錯誤なども経て)思った通りに動いたときには満足感を得られるが、比較的簡単なプログラムが思った通りに動かないとき、特にそれをどう直せば良いかヒントもつかめないようなときは大きなストレスとなる。良くないエクスペリエンスであることは言うまでもない。

 初心者の場合であれば、そうしたことに加え、文法間違いによるエラーなどが出ること自体がストレスとなり、そのために意欲をなくすという人も少なくないだろう。こうした初心者のプログラミング体験を改善しようという研究で作られているのが、明治大学の宮下芳明氏らによる「HMMMML」に始まるプログラミング言語のシリーズである。

 その一つである「HMMMML2」は、「超好意的解釈」という機能を導入している。これはスペルミスを許容することに加え、複数の解釈が可能なあいまいな記述の場合には、全ての解釈を並列に実行し、結果の中から意図したものをユーザー(プログラマー)に選ばせるという機能である。

 それでもまだプログラムは「書いた通りに動いて」いるわけだが、その範囲を拡張して「思った通りに動く」状態に近づけようという興味深い試みである。

最後に

 計算機やそれを取り巻く技術の進歩により、プログラミング言語も、プログラミング環境も、そしてプログラミングのエクスペリエンスもどんどん変化していく。例えば今後、機械学習や人工知能(AI)のような技術の発達がプログラミング環境を大きく変化させていくのは間違いないだろう。

 従来の環境でのプログラミングと、AIの比重が増えた環境でのプログラミングと、UXとしての重要な違いは何か、そこにどういう課題が出てくるかなどはじっくり考えてみたい対象である。

綾塚祐二
東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISIDオープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCIが専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。

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