変わりゆくソフトライセンス(2)--サブスクと永続モデルで見落とされがちな2つの視点

西浦詳二 (フレクセラ・ソフトウェア) 2019年02月20日 07時00分

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 前回はソフトウェア(のライセンス)を購入する際の、永続ライセンスとサブスクリプションの違いをシンプルなROIモデルを使って比較した。標準的なモデルでのライセンスコストは使用期間4年を分岐点として、それよりも長く使用する場合は永続の方が、短い場合はサブスクリプションの方が低いという結果だった。

 今回はシンプルなコスト比較以外の要素について、特に見落とされがちな2つの視点に絞って考えてみたい。その後、サービス化やクラウド、ライセンスの二次流通について見てみる。

1.ソフトウェア提供者との関係

 1点目として、いったん視点を変えてソフトウェアの提供者の立場で考えてみよう。

 ソフトウェアを提供する会社を評価する項目に「ARR」というものがある。ARR は Annual Recurring Revenue の略で、継続的に得られる収益を1年単位(Annual)にしたものだ。なお、これが1カ月単位の場合は「MRR」(Monthly Recurring Revenue)となる。

 ARRには幾つかのバリエーションがあるが、本稿の趣旨には影響がないので詳細は考えない。ARRは大きい方が好ましいのだが、ここで、「継続的に」というのがミソだ。ソフトウェアビジネスにおいてARRが重視されるのは将来の収益を安定的に見通すことができるからだ。そして、ユーザーが継続的にソフトウェアを利用してくれる限り永続ライセンスの保守契約よりも高い収益が得られるので、事業の将来価値が高く、優良な事業となる。

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 つまりこういうことだ。永続ライセンスの販売は一度売ってしまえばで、次の年の収益との関係は保守契約になる。永続ライセンスに対する保守契約は毎年の収益が期待できるのでARR算定の対象であり、前回設定したモデルではライセンス初期費用の20%だ。一方、サブスクリプションでは、(1年契約の場合)初年度と同じ金額が2年目以降もARR算定の対象となる。

 ソフトウェア提供者の立場から見ると、永続ライセンスを販売して保守契約を継続してもらうよりサブスクリプションの方が初年度の売り上げは小さいものの、売り上げとキャッシュフローが平準化し、また、一つの契約当たりの将来にわたって期待できる収益も高いのだ。なお、これらの点が広く認識され始めたのは筆者の肌感覚では直近10年程度ではないかと思う。

 さて、それでは提供者(メーカー)からソフトウェアを購入する立場ではどのように考えればいいのだろうか。価格交渉などでメーカーと激しくやりあったことがある方の中には「相手が得をするのならこちらはその逆の方向が有利」と考えてしまう方もいらっしゃると思うが、少し待ってほしい。ビジネスはゼロサムゲームではない。というのも、上の説明には、実は極めて重要な前提がある。それは「ユーザーが継続してソフトウェアを利用するならば」である。

 提供者は、ユーザーに継続的にソフトウェアを利用してほしいと考えている。サブスクリプションの場合にはそれが収益に直結するため、より強い動機付けとなるのだ。つまり、永続ライセンスの販売は最初に大きな売り上げを認識することができ、後は保守契約で脆弱性対策をする程度で、顧客の満足を必ずしも重視しない傾向が見られる場合がある。いわゆる売りっぱなし(英語圏では“Sell and Forget”と表現されることもある)だ。

 より良いものを継続的に提供していこうというモチベーションはサブスクリプションの方が強くなることが想像できる。利用者の立場からすると「満足できるものを提供し続けてくれないと契約継続できないな」という、影響力の保持になる。この点は、ソフトウェアの機能向上・追加、ニーズの変化など、比較的移り変わりの速い分野では特に重要な点だ。

 一方、5年前のバージョンでも十分問題なく使えるといったような、例えばインフラやミドルウェア分野のソフトウェアの場合には重要性は低くなるだろう。

2.管理コスト

 ソフトウェアライセンスそのものの対価以外にどのようなコストがあるだろうか。特に永続ライセンスとサブスクリプションで差が出るとすればどのような要素があるだろうか。

 ソフトウェアライセンスは価値あるもので、有効に活用できれば優良な資産だ。「有効に活用」と言ったとき、主に2つのシナリオで考えられる。

 一つは、役に立つ資産として「使われ続ける」場合だ。これは、例えば会社の〇×システムの中にそのソフトウェアが組み込まれ、なおかつ〇×システムが使われ続けている場合などが代表的だ。製造業の生産管理システムとして十数年にわたってデータベースシステムが稼働しているというような状況はよく見かけるが、元は十分取ったといって差し支えないだろう。このシナリオでは、もちろん前回(第1回)で見たケースが当てはまり、永続ライセンスが有利だろう。

 もう一つのシナリオは、当初使用された環境ではその役割を終えたが、別の環境で再利用されて活用される場合だ。例えば、ミドルウェアがはじめの3年間は人事管理システムで使われていたがソフトウェアの更新に伴って使われなくなり、その後、顧客管理システムの更新に伴って転用されるというような場合だ。

 1つ目のシナリオの場合は特にソフトウェアをシステム全体として分けて管理せずシステム自体の棚卸しを行っていても結果的には大きな問題ないが、後者のシナリオを実現しようとすると途端に問題が発生する。

 日本でよく見られるのは、高価な商用ソフトウェアを含む「システム一式」として資産登録されており、システムの除却と同時にソフトウェアライセンスも除却されるパターンだ。永続的に有効なライセンスでも、除却したのでは期間限定で購入したのと変わりがない。

 これに伴う問題は、ソフトウェアがシステム資産と連携して管理されていないために、除却後も保守契約費用を支払い続けるという、これまたよく見かけるパターンに陥る。これでは永続ライセンスは優良な資産ではなく、厄介な負債と同じだ。仮にサブスクリプション契約の場合は、少なくともソフトウェアライセンスの台帳がシステムとは別に管理されている(ベンダーには台帳がある)。システムとソフトウェアを対応づける必要はあるものの、少なくとも一定の歯止めになることが期待できる。

 つまり、永続ライセンスの場合は、自社がライセンスを保持しているかどうか分からないのに比べ、サブスクリプションであれば少なくともライセンスを保持していることだけは分かる。何やら相当基本的な話のようだが、実際にはこのような場合も珍しくないのが現実だ。

 永続ライセンスは会計的には原則として資産になるが、ライセンスによって付与されている権利(「エンタイトルメント」と呼ぶ)は会計上の資産とは別に、しかし連携して管理していく必要があるということだ。誰も使わない古いバージョンのソフトウェアの使用権をいつまでも管理し続けるのも無駄なので、廃棄(除却)処理をし(そうでなければ保守費用を支払い続けるリスクを伴う)、再利用できるものは再利用することで全体のコストを削減する。エンタイトルメントと現物(インベントリと呼ぶ)とを照合しながら管理を行う業務がソフトウェア資産管理(SAM:Software Asset Management)だ。

 SAM業務を考えたとき、「思ったより大変そうだ」という感想を持つ読者が多いのではないだろうか。筆者の経験でも、ある程度以上の規模の組織が上のようなシナリオにそれなりに対応するには、専任者あるいは専任部署を持ち、業務プロセス、ルール、ツールを整備しないととてもではないが対応しきれない。

 多くの組織では漠然とした問題意識を持ちながらライセンス違反の状態にあったり、永続的に有効なライセンスを再利用せずに(知らない間に)捨てて同じものを購入していたり、また、ソフトウェアベンダーの監査であたふたした結果(時に支払う必要のない)追加ライセンス費を支払うというようなことがあちこちで起きている。

 これらの管理コストを考えた場合、サブスクリプションは理想的な解決策には程遠いとしても、一定の歯止めをかけることは期待できる。管理が不十分なために認識できていない権利は保持していないのと同じだ。

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