顧客企業のイノベーションをどうやって促進するか――。IBMの答えは、クラウドと物理的環境だ。同社が2016年に発表した「IBM Cloud Garage」は、物理的な作業環境に顧客企業を呼び、アイデア出しから実現までをサポートするというものだ。同社が2月に米国サンフランシスコで開催した「Think 2019」では、顧客がどのようにしてCloud Garageを利用してデジタル変革を図っているのかが紹介された。
チェックインのコンバージョン率を数週間で改善、効果が見えるところから着手:Etihad Airways
Cloud Garageは、同社が東京を含む世界数都市で展開するデジタル変革支援サービス。企業のビジネス担当者、開発・運用チームらが参加して、IBMの専門家とともにデジタル変革を進める。アイデア創造のための「デザインシンキングワークショップ」、アイデアを検証する「MVPビルドアップ」、アプリケーションの拡張から開発チームの支援までを含む「ガレージ・トランスフォーメーション」と総合的に支援する。
ステップとしては、デザインシンキングを活用し、2~5日でアイデアをまとめる。次にクラウドネイティブ環境を利用してアイデアを検証しながら形にし、本番向けのアプリケーションにする。IBMによると最短12週間で完了可能という。
IBM Cloud Garageのグローバルヘッドを務めるStephanie Trunzo氏はまず、最初のアイデア段階のヒントとして、次の4つを挙げる。
- 大きなアイデアをアクション可能な小さな単位に分割する
- アイデアはチャンスだけではなく、問題解決などの課題から生まれることもある
- 技術を阻害要因ではなく加速要因に
- 共同作成に向けて、各担当者がこれまでのマインドセットを変える
実際に形にする部分では、アジャイル開発(DevOps)、継続的デリバリ(CD)、実行、運用モニタリングや自動化、A/BテストによるUIの改善と進めていく。これを通じて、マインドセットを変えるという手法だ。ツール側ではコンテナ、Kubernetesなどの技術を中核としたクラウドネイティブプラットフォームと、セキュリティ機能などをそろえる。
Cloud Garageを利用して3~4カ月でチェックイン体験を構築したEtihad Airwaysでビジネスインテリジェンス担当トップのYousif Yousif氏は、デジタル変革を進めるに当たってチェックイン体験の向上を選んだ。その理由について、「技術の問題、ビジネスの問題を考える必要があった。Cloud Garageでデザインシンキングを行い、大規模な変化ではなく小さな変化から着手することになった」と述べる。新ブランディングキャンペーン「Choose Well」をスタートしたところであり、カスタマージャーニーのスタート地点であるチェックインでベターな体験を提供することが、ビジネスの価値につながると考えたという。
アイデアが出た後は、IBMの担当者と実現に当たっての技術環境をチェックした。IBMとは既に提携関係にあり、インフラのモダン化を進めていた。Cloud Garageのアジャイル手法を利用することで、2週間でPoC(概念実証)にこぎつけたという。
その結果、チェックインのコンバージョン率は40%から70%に、しかも「数週間ですぐに改善した」とYousif氏。すぐに結果が出ることで幹部の理解も得られた。総じて「取り組むに当たって適切な問題を選んだこと」が成功のコツだとYousif氏は振り返った。
Etihad Airwaysのビジネスインテリジェンス担当トップのYousif Yousif氏(左)とIBM Cloud Garageのグローバルヘッド、Stephanie Trunzo氏。
金融サービスを展開するPrimericaは、レガシーアプリケーションのモダン化を進めるに当たってCloud Garageを利用した。数十年来のパートナーであるIBMに対しては、「技術の変遷の中で我々を取り残すことなく、新しい技術に導き移行を支援してくれた」と同社の最高技術責任者(CTO)、Barry Pellas氏は信頼関係を語る。
パブリッククラウド戦略では「Infrastructure as Code」を指針に、人間が運用システムに触れることなく、スクリプトを書くことで数時間内にデータセンターを立ち上げたり、削除したりできる体制を整えた。同時に、規制順守もありクラウドネイティブ環境をオンプレミスに構築できる「IBM Cloud Private(ICP)」を利用して、パブリッククラウドでのスクリプトを複製した。ICPはレガシーコードのモダン化でも活躍したという。
規制が厳しい保守的な業界だが、デジタル変革への幹部の理解とプッシュが重要な要素だったとPellas氏は振り返った。