全国の多くのひとり情シス担当者に、セミナーや勉強会、顧客訪問などを通じてお会いしています。二人として同じ環境ではなく、苦労している点も異なり、持っているスキルセットや過去の生い立ちなども違います。
そのため、この連載の第4回で、ひとり情シスを幾つかのタイプに分類することの記事を書かせていただきました。詳しくは、もう一度、「第4回:ひとり情シスのタイプ--“ジュニア”が置かれた環境と実態」を見ていただけると幸いです。
ひとり情シスのトップパフォーマー「スーパーひとり情シス」
たまにお会いするのですが、独特な雰囲気を持っていたり、とても人懐っこい人柄だったり、見るからにインテリジェンスを感じたりするような、ある種のオーラを漂わせる方々がいます。そうした“スーパーマン的”な方々を「スーパーひとり情シス」と定義しています。
「スーパーひとり情シス」の立ち位置
これは、一人で何でもできる情シス担当者を指した表現です。いわゆる「フルスタック」と呼ばれるエンジニアや、それを目指してまい進中の方々も含めます。「スタック」(Stack)は「積み重ね」という意味ですので、あらゆる技術やスキルが積み重なったエンジニアというわけです。
何でもマルチにこなせる「マルチエンジニア」とも呼ばれ、システム工学全般に通じているほか、サーバやデータベース、ストレージ、ネットワークの運用管理、アプリケーションの開発、セキュリティ対策、最近ではクラウドの活用など、大企業では分業体制で専門化している各業務を一人でこなしています。
人当たりのいい人、とても明るい人、物静かな人など、さまざまな性格の方々がいますが、共通しているのはコミュニケーション能力が非常に高いことです。一人で大規模なシステムを管理しながら、経営層に進言したり、エンドユーザーの啓もう活動をしたりしています。
自分でシステムを内製して市販の業務アプリを置き換えてしまうケースもあります。分業化が進んでいる現在のIT業界において、外部仕様を決定するコンサルタント、プログラムをコーディングするプログラマー、システムを稼働するまで持っていくインテグレーターなどの要素も全て一人でこなしてしまいます。
最近では、成長著しいベンチャー企業の中に、このようなフルスタックの最高技術責任者(CTO)が存在するケースがあります。市場の変化に合わせてサービスやシステムをスピーディに構築するため、スーパーひとり情シスと同じく、広範囲のスキルを有しています。
将来のビジョンなどはめったに口にすることはないのですが、経営参謀や経営者としてのキャリアを目指していることがあります。大手企業でもIT出身の新社長が就任しているので、あと数年もすれば、スーパーひとり情シスから社長になる方も出てくるのではないかと思っています。
スーパーひとり情シスは、社内で圧倒的に信頼感と安定感があります。それを踏まえた上でとる行動指針としては、次のようなものが挙げられます。
- 攻めるITも重要だが、ブレーキ役として経営層に意見を言うことも大切
- 後継候補の養成やノウハウの言語化など、組織への蓄積が重要
- ビジネスモデルとして効果のあるIT支援策を継続して考えること
これらが、活躍しているスーパーひとり情シスに共通する行動パターンとお見受けいたします。彼らはひとり情シスの世界で頂点に位置する方々ですので、ひとり情シス全体にノウハウや経験が共有されるといいのではないかと考えています。
- 清水博(しみず・ひろし)
- デル 上席執行役員 広域営業統括本部長
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横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。
2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手がけた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。現在、従業員100~1000人までの大企業、中堅企業をターゲットにしたビジネス活動を統括している。自部門がグローバルナンバーワン部門として表彰され、アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。
産学連携活動として、近畿大学と共同のCIO養成講座を主宰する。著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)。AmazonのIT・情報社会のカテゴリーでベストセラー。早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。