拠点ごとにサービスを提供する場合には、データを特定のファイル形式で渡したり、リアルタイムで連携させたり、フォーマットを決めてやり取りしたりといった“連携の作法”がある。
「接続性の確保やデータの共通化、システムのメンテナンスに時間を費やすことだけは避けたかった。新サービスを提供するために(アーキテクチャを)再構築するのは現実的ではない。さまざまなデータをさまざまな形式で取り込め、さまざまなアプリの要求に応じて出力できること。アダプタの種類が豊富で、複数のクラウドに対して柔軟に対応できること。そうした観点からも、Talendには優位性があった」(芦田氏)
医療機関も注目する理由
現在、OMRON connectがデータ連携するアプリやクラウドは60以上に及ぶ。その種類は地方自治体が提供する糖尿病健康管理ツール(あいち健康の森 七福神アプリ)から、医療機関検査データとの連携まで幅広い。
医療機関との連携で注目されているのが、医療機器の開発や製造、販売を手掛けるフクダ電子とのデータ提携による医療サービスの拡充だ。
OMRON connect対応機器で収集したバイタルデータを患者の同意を得た上で同社のデータ基盤を経由してフクダ電子のクラウドと共有。フクダ電子の検査データ管理システムである「f'no(エフノ)」と連携させて、医師が血圧データを確認できる仕組みだ。つまり、家庭内で測定した血圧データとフクダ電子の機器で収集した院内検査データを単一のUIで可視化することで、より正確な患者の健康状態が把握できるようになる。

f'noとの連携イメージ(出展:オムロン ヘルスケア)
実は、医療機関では、病院で測定した血圧の数値よりも、家庭で測定した「家庭血圧」の方を優先することが求められている。2014年4月に日本高血圧学会がまとめた「高血圧治療ガイドライン」では、「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」と記されている。
血圧は周囲の環境によって大きく左右される。一般的に医師が測定すると、患者が緊張して血圧が上がる傾向があると言われている。また、現在は家庭で測定した血圧値は患者が記録して医師に提出している。しかし、高い数値が出ると、患者は医師に怒られると考えて端数を切り捨てるなど、不正確なデータを提出するケースが少なくないという。
「フクダ電子との連携はこうした事態を回避するものだ。電子化によって“ごまかし”ができなくなるので、医療関係者から評価されている。医師は家庭血圧のグラフをもとに適切な変化に応じて薬の量を調整できる。医療事業者は治療(投薬)の適正化の実現が、患者にとっては適切な状態に応じた治療が受けられる」(芦田氏)
もちろん、こうしたデータの共有は患者の許諾があることが大前提だ。オムロン ヘルスケアでは、患者の同意を得た上で医療関係者が活用したいバイタルデータを連携し、より効果的な治療や予防につなげる「データサービス事業」を展開していきたいと考えている。具体的には、病院や保険業界など、食事習慣や運動状況、喫煙、飲酒といった高血圧の要因となる“インデックス”データに関心を寄せる企業や組織とのデータ連携である。
芦田氏は「特に米国では医療に対する採算性の追求や効率化に対する意識が高い。高血圧治療の精度が上がることによって、保健医療や保健サービスにどのようなメリットがあるのかを考えるといったことは、米国の方が活発だ。グローバルで展開するわれわれにとっては、そうした市場でも商機があると考えている」としている。