内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

DX推進組織の進化のステップ--目指すべき企業像を明確に

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2019-03-13 07:00

 昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のために専門組織を設置する例が増えています。IT部門や事業部門内に推進チームを設置した場合も含めて、これらの組織には進化のステップがあると考えられます。

DX推進組織の必要性

 DXの取り組みが活発化していますが、企業がデジタル技術を活用したビジネス変革を実現したり、イノベーションのアイデアを出し、それを実現したりしていくためには、これを推進する組織体制が必要となります。2017年3月15日に掲載した「IT部門はイノベーション組織となれるのか」でも述べたように、DXの推進に向けた組織形態には3つのタイプがあります。

 それは、ITの専門家集団であるIT部門が機能を拡張して、デジタルイノベーションの創出を担う「IT部門拡張型」、事業部門が主導し、IT部門が支援する「事業部門拡張型」、そしてこれらとは別に、デジタルイノベーションを推進する専門組織を設置する「専門組織設置型」の3つです。

 これらのどの形態が良くて、どれが悪いというものではありません。ビジネスとITとの関連性や業種によっても適合する形態は異なります。しかし、社内各部門から精鋭を集めたタスクフォースを結成するなどの取り組みにおいて、推進メンバーが従来業務との兼務である場合は、「メンバーが多忙である」「権限が与えられていない」「既存事業部門の協力が得られない」など、さまざまな理由によって活動が停滞する状況が散見されます。

 実際にある企業では、社長からの指示で、デジタルイノベーション検討タスクフォースが立ち上がり、兼任のメンバーが月1回の頻度で検討会を開催していましたが、半年経った頃から、メンバーが多忙を理由に検討会の欠席が目立つようになり、1年を経ずに自然消滅してしまったということもありました。

 やはり、本気でDXを推進しようと考えるのであれば、専任のメンバーを置き、明確な組織ミッションと目標を与えることが有効といえます。また、IT部門拡張型や事業部門拡張型であっても、全社的な視点を持ち、組織横断的な活動が進められるようになっていることが重要です。

DX推進組織も進化しなければならない

 組織は生き物であるといわれるように、ビジネス環境の変化や企業のイノベーションへの取り組みの成熟度などに応じて、組織の役割や形態を変容させていくことが求められます。昨今、DX推進のための専門組織を設置する例が増えています。IT部門や事業部門内に推進チームを設置した場合も含めて、これらの組織には進化のステップがあると考えられます(図1)。

図1.DX推進組織の進化のステップ(出典:ITR)
図1.DX推進組織の進化のステップ(出典:ITR)

 DX推進のための専門組織がどこにも設置されていない状況では、各事業部門などで個別にデジタル化やイノベーションへの取り組みが開始されます。こうした状況では互いの連携や相乗効果を期待することはできず、同じようなことを別の事業部門でバラバラに取り組むことで、重複投資や同じ失敗の繰り返しといった問題が生じます。

 ある企業では、デジタル技術活用の試行的な取り組みや実験的なシステムの構築のために、各事業部門がそれぞれに多様なクラウドサービスを契約してしまい、全社でどれだけのクラウド契約があるかさえ分からなくなってしまったということもありました。そうなると、活用する技術、協力を得るベンダーもバラバラとなり、知識やノウハウの共有ができず、リソースの無駄やトラブルが頻発するといったことにつながってしまいます。

 こうした問題を解消し、人材やノウハウを集約するために組織横断的なDX推進組織を設置するというのが一般的な流れといえます。事業部門が個別に取り組んでいたデジタル化案件の一部は、推進組織が巻き取り、事業部門と連携したり推進組織が主体となって遂行したりすることとなります。この形態のままでDX推進組織が中心となって継続的にイノベーションを主体的に推進したり、支援したりするのも1つの考え方といえます。

 しかし、DXへの取り組みが活発化してくると、現場に近い事業部門でのデジタル化案件が増加し、案件によっては事業部門が主体となって推進する方が、スピード感を持って進められるという場面が多くなります。そのような場合は、横断的な組織はDXにおける個別の案件の後方支援や環境整備に軸足を置くようにし、実際のイノベーション案件の推進主体は事業部門側に移管するという方法も考えられます。

 最終的には会社全体として誰もが組織や役割を意識することなく、日常的にデジタル化やイノベーションが推進されるような形態を目指すとすれば、各事業部門の活動は事業部門内の推進チームが取りまとめたり、支援を提供したりし、横断的な組織は全社的な視点からノウハウを集積したり、必要に応じた支援を提供したりするコンピタンスセンターのような役割を担うこととなります。

 いずれにしても、自社がどのような企業像を目指すのかによって、必要となる組織形態は異なります。まずは、DX推進の方針と目指すべき企業像を明確に示すことが求められます。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任しプリンシパル・アナリストとして活動を続け、2019年2月に会長/エグゼクティブ・アナリストに就任 。ユーザー企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供している。講演・執筆多数。

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