インターネットの資源であるドメイン名やIPアドレス、プロトコルなどを管理する非営利公益法人の国際機関「ICANN(※1)」の公開会議「ICANN64」が神戸で3月9~14日まで開催されている。ICANNの公開会議は世界中の異なる地域で年3回行われるが、日本では2000年の横浜から19年ぶり2回目の開催となる。会場の神戸ポートピアホテルには国内から200人、世界から2000人が参加し、さまざまな議論や情報交換が行われた。
ICANNでは、誰もが当たり前のようにインターネットを使えるようにするため、「.jp」や「.net」などのドメインやIPアドレスといった「インターネット上の住所」を管理し、運用ルールや新しいドメインを発行するかどうかなどを決めている。世界の共通資源であるインターネットが、特定の国や企業の利益に偏ることなくできるだけ公平に運用されるようにするため、ICANNではマルチステイクホルダーモデルを重視しており、幅広い立場の人たちが議論に参加できるようにしている。普段の協議は担当組織で個別に行われるが、それらの発表や改めて意見を求めたり、議論を行う場として公開会議が行われる。
公開と付くだけあって、会議は誰でも無料で参加でき、直接参加できない場合はオンラインでコメントすることもできる。プログラムの内容は全てオンラインで公開され、ライブストリーミングや発表資料、場合によってはテキストも全て記録としてアーカイブされている。インターネットのプライバシーやセキュリティといった重要な問題についても議論されており、国の政策や国家機関、警察関係者やインターポールからも参加があるという。MicrosoftやGoogle、Facebookといった企業からの参加者はあるが、いずれかの組織や委員会のメンバーとして参加しているケースが多い。こうした参加者も公開されており、全てにおいて透明性を保つよう配慮されている。
世界中から参加できる会議の模様はライブストリーミングで公開され、議事録や資料は全てオンラインで公開され、誰でも見ることができる。
10日朝に行われたウェルカムセレモニーは、アジア太平洋地域副会長のJia-Rong Low氏が司会進行役を務め、ICANN理事会委員長のCherine Chalaby氏のあいさつで始まった。Chalaby氏は、ICANNが掲げる目的や今後の活動で重要になる戦略について説明し、「ICANNは今まで以上にハードな課題に直面し、新しい規則が求められているが成功には自信がある。進化には変化が必要でありそのためにも前進を続ける」と述べた。
アジア太平洋地域副会長のJia-Rong Low氏
ICANN理事会委員長のCherine Chalaby氏
続いてICANNプレジデント兼CEO(最高経営責任者)のGoran Marby氏は、「この30年で40億人以上がインターネットにつながり、生き方にも影響を与えているが、それを進化させてきたのは電信企業ではなく私たち自身である」と言い、「政治にさえ影響を与える存在になっていることから、(ICANNの活動を)正しく理解してもらうための施策を提供していく」と述べた。また、今回の会議では、サイバーセキュリティの議論やDNS(ドメインネームシステム)の法律制定に関する議論、GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)に伴う、ドメインの所持者を公開するWHOISのプライバシー設定をどうするかなど、数多くの難しい問題についても話し合われることが説明された。
ICANNプレジデント兼CEOのGoran Marby氏
日本からは、総務副大臣の佐藤ゆかり氏と神戸市長の久元喜造氏が出席し、佐藤副大臣は「世界で一つのインターネットを30年間支えてきた人たちに敬意を表するとともに、会議を通じてインターネットの安定運用に貢献できることを誇りに思う」と述べた。久元市長は神戸市が、1994年に公式ホームページを日本で最も早く公開した自治体であり、「翌年の阪神淡路大震災をきっかけに災害に強い情報ネットワークを構築し、復旧復興の歩みにしてきたことから、新たなステージに向けて活用ルールがさらに整備されるのを期待している」と述べた。
佐藤ゆかり総務副大臣
神戸市長の久元喜造氏
“インターネットの父”として日本のインターネットを支え、ICANN64ローカルホスト委員会の長を務める慶應義塾大学 教授の村井純氏は「神戸は日本のグローバルなインターネットとマルチステイクホルダーが始まった特別な街で、2000年からICANNとの歴史が始まった」と紹介。「インターネットがカバーする分野が高齢化や農業にまで拡大する中で、誰もがアクセスできる共通プラットフォームを構築するため、コミュニティーで取り組む初の企てであり、長年参加し続けてきたことを光栄に思っている」と述べた。
日本のインターネットを支えてきた慶應義塾大学の村井純教授はその功績が評価され、フランス最高勲位のレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受章している。
最後に5つの地域インターネットレジストリ(RIR)で構成されるNRO Executive Councilの議長を務めるAlan Barrett氏から、グローバルポリシーの提案をはじめとする重要なタスクが説明され、他にもIPアドレスやプロトコルに関する技術的な検討が行われていることが紹介された。ボランティアの貢献で運営されているICANNは、こうした重要な議題を扱うため作業量が増えているのが問題視されており、運営そのものについても議論を進めていきたいと述べていた。
NRO Executive Councilの議長を務めるAlan Barrett氏
セレモニーに続いて早速さまざまな議論が始まるが、多い時には同時間帯で8つのプログラムが進行する。最終的にどのような話題や議論が交わされるかは、その場にならなければ分からないが、14日にはラップアップとして今回のまとめと次の舞台となるモロッコのマラケシュの議題や目標などが発表される予定だ。それらの内容については後日、紹介する予定だ。
セレモニーでは和太鼓の演奏による歓迎も行われた。
(取材協力:日本ネットワークインフォメーションセンター)