3月初めの話だ。ある末期患者が、病室に入ってきた遠隔診療ロボットのHD画面を通じて医師からあと数日の命だと告げられた。Associated Press(AP)の報道によると、78歳のErnest Quintana氏は慢性肺疾患による息切れで病院に担ぎ込まれてきたという。
Quintana氏の病気は既に末期段階だと診断されてはいたものの、家族は集中治療室に入ってきたロボットの画面を通じ、医師から同氏の命は長くてあと数日だと知らされたことに驚き、憤っている。
このニュースは、思いやりが必要とされるデリケートな状況におけるロボットの使用の是非に関する議論を巻き起こした。
同氏の娘であるCatherine Quintana氏はAPに対して、「ありきたりの情報を告げに来るのであれば、別に構わない」と述べたうえで、「しかし、肺機能が低下しているため、死の時までモルヒネの点滴投与を実施したいという話は機械を通じてではなく、人間が面と向かってするべきだ」と続けた。
遠隔診療ソリューションは、病院スタッフの不足を背景にますます普及してきている。またこういった機械化は、オフィスや学校といった、工場以外の場面でも見られるようになってきている。なお筆者は最近、赤外線センサを用いて患者の体温を測定し、ビデオ通話によって医師とのやり取りをした後、処方薬を調合する新たなロボット遠隔診療ステーションの展開に関する記事を執筆している。
しかし、ロボットがぎこちなく日常生活に入り込んでくるなかで、社会的な抵抗の事例も発生している。例を挙げると、日本のあるホテルで雇用されていたロボット従業員が2019年の初めに、不気味で役に立たないという理由でクビにされている。また、セックスロボットに関する議論がネット上で盛んになったり、ロボット店員が状況を理解できず、親身になってくれないという買い物客のイライラも報告されている。
われわれが目にしている社会的な抵抗の一因として、ロボットと人間を分け隔てる心の知能がある。心の知能を身に付けていると謳われるロボットはボディランゲージや声を手がかりにしてあらかじめ計算された反応を示せるものの、今のところそのような振る舞いで社会的な抵抗をなくすことはできないだろう。
しかしある調査によると、われわれは生まれつき、ロボットを完全な社会的エージェントとして捉えるようにできているという。ロボットがより説得力のある心の知能を獲得するとともに、機械とやり取りする際の壁は壊されていくだろう。ロボット工学には、人間とロボットのやり取りを合理化するための幅広い分野が存在しており、こういった分野からの洞察によりテレプレゼンスロボットであってもジェスチャーや動き、姿勢からある程度の思いやりを伝えられるようになるだろう。