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B2Bの世界に“ギグエコノミー”を--SAPが買収したCoresystemsの狙い

末岡洋子

2019-03-22 06:00

 SAPがCRM(顧客関係管理)の「C/4 HANA」の一つである「Service Cloud」において、オンデマンドで技術者を割り当てる機能を提供する。土台となるのは、2018年に買収したフィールドサービスのCoresystemsだ。Coresystemsは“クラウド(crowd=人材の集まり)”サービスとして展開するギグエコノミーの仕組みを持ち、SAPの一部となることで専門人材派遣のFieldglassなど、SAPのほかのサービスとの統合が期待される。Coresystemsの創業者で、現在はSAP Field Service Management担当ゼネラルマネージャーを務めるManuel Grenacher氏に話を聞いた。

--フィールドサービスベンチャーとしてCoresystemsを創業した。起業の背景は? また、この分野の市場規模はどのぐらいか?

 学生時代に、学費稼ぎにPC修理などのITサービスを手掛け、これが起業につながった。サービスを改善すれば人々の生活も改善できる。サービス担当者がもっとハッピーになるよう、この業界を変えたいと思っている。

Coresystemsを創業したManuel Grenacher氏。現在Coresystemsの機能はC/4 HANAのService Cloudに統合されており、Grenacher氏もService Cloudでフィールドサービスを統括する
Coresystemsを創業したManuel Grenacher氏。現在Coresystemsの機能はC/4 HANAのService Cloudに統合されており、Grenacher氏もService Cloudでフィールドサービスを統括する

 市場規模については、定義が難しいものの、サービス市場としてはソフトウェア支出ベースで50~100億ドル、全体では100億~120億ドルと言われている。

 この市場はこれまで大手が手がけていなかったが、Salesforce.comなど多くの大企業が進出し始めている。理由の一つとして、サービスの重要性が高まっていることが挙げられる。企業はサービスで差別化を図る必要がある。何らかの製品を提供する企業は全て、優れた体験を提供するために製品にサービスをひも付けるようになっている。

--SAPとCoresystemsの統合によるメリットは?

 SAPとは、創業時からパートナー関係にあり、買収は自然な流れだった。われわれはフィールドサービスの技術とツールがあるだけでなく、ビジョンがあったことがSAPに買収を決断させた理由だと聞いている。

 Coresystemsにとってのメリットは、SAPのプラットフォームと営業力を得られ、ミッションの実現を迅速化できる。これはチームと自分にとって素晴らしいチャンスだと判断し、SAPを選んだ。まずは、SAPが抱える膨大な顧客にCoresystemsの技術を提供する。

--製品体験におけるサービスの重要性が高まっているとのことだが、サービスの重要性とクラウド(crowd)サービスの関係は?

 有名なドリル企業の話を紹介したい。消費者はドリルがほしいのではなく、(ドリルを使って)穴を開けたい。この問題を解決するために、穴を開ける人と支援する人をひも付ける必要がある。これはビジネス的にも大きな変化となる。

 Coresystems時代にフィールドサービスの経験から学んだのは、優れた体験を提供するためには無限の人材が必要だということ。問題が発生しているその時に、リアルタイムで解決に必要なスキルを持つ人がいる。一方で、これは不可能に近い。一部のサービスはクラウド(crowd)サービスが魅力的になる。そこで5年ほど前にクラウド(crowd)サービスをスタートした。

 人材をオンボードしたり、ジョブを割り当てたりするクラウド(cloud)のシステムで、ジョブの発生から実行までの機能を全て備える。フォーカスはBtoBまたはBtoBtoCで、既に約20社が利用している。

 その1つがSwisscomだ。セットトップボックス(STB)の設定で、われわれのクラウド(crowd)ソーシングシステムを使って、ユーザー同士が助け合う仕組みを構築した。Swisscomのエンジニア数に限りがあり、近くに住んでいるSwisscomの顧客同士で助け合えると予想したが、実際その通りになった。8000人以上がエンジニアとして登録し、売り上げをSwisscomとシェアした。

 クラウド(crowd)サービスで重要なことは、既に人を雇って実施しているサービスではなく、新規サービスや新しい体験でやってみる点だ。ドリルの会社なら、ドリルの故障を修理するエンジニアは既にいるので既存サービスだが、穴を開ける部分が新規になる。

 空いている人が空いている時間に仕事をする“ギグエコノミー”は、急速に成長している。米国では5000万人が参加しているという。(Uberなどライドシェアリングの)運転手、(UberEATSのような)食品を運ぶ人だけではない。設計やエンジニア、メカに強い人も、自分のスキルを生かすことができる。フルタイムで仕事をする時代から複数の仕事をする時代に変化しつつある。

フォークリフト会社の場合、製品についたQRコードを顧客がスキャンしてチャットでより詳細な状況を聞く。正確な位置情報を聞くと、近くにいて稼働可能な技術者を探すことができる。フォークリフトそのものはインターネット接続している必要はない
フォークリフト会社の場合、製品についたQRコードを顧客がスキャンしてチャットでより詳細な状況を聞く。正確な位置情報を聞くと、近くにいて稼働可能な技術者を探すことができる。フォークリフトそのものはインターネット接続している必要はない

Uberが将来の競合になる可能性も

 われわれのプラットフォームに最も近いのはUberのシステムだ。将来Uberが自分たちのプラットフォームをオープンにするかもしれない。そうなると、市場はもっと面白くなるだろう。

 だが、われわれの顧客は在庫部品、保証、認定、条件などさまざまな処理も必要で、SAPのERP(統合基幹業務システム)などとの統合は、われわれの大きな差別化になる。

--SAPはFieldglassを持つが、その統合も進めるのか?

 もちろんだ。Fieldglassには500万人以上のプロフィールがある。また、調達のAribaは部品の調達などで利用できる。

 サービスが必要な場所の近くにいる技術者が、一番近くの倉庫で部品をピックアップする。これが全てオンデマンドで実現される。今はまだだが、SAPは実現する能力がある。

--フィールドサービスは将来どのように進化する?

 大企業は、技術者をシェアするようになると予想している。目的は顧客体験の改善だ。顧客の期待が高くなっているが、リソースが十分という企業は1社もない。

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