展望2020年のIT企業

日本市場開拓に取り組む中国系IT企業のチャレンジ

田中克己 2019年03月25日 07時15分

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 外国人が日本で立ち上げるIT企業は増えている。中国・江蘇省出身の花東江氏が2007年に設立したイー・ビジネスはその1社だ。東京に本社を構えて、300人近い中国のIT技術者らを日本企業に派遣する一方、中国IT企業の先端技術を駆使した商品やサービスを日本企業に販売する。ユーザーとの関係をパートナーとする第2世代の中国系IT企業の同社がどんなビジネスを日本で展開するのだろう。

IT人材派遣から中国先端技術の提供へと拡大するイー・ビジネス

 イー・ビジネスの花氏は、2003年に中国南京理工大学を卒業し、2004年に日本のIT企業にシステムエンジニア(SE)として入社した。実は、中国人の新卒を育成し、日本の大手企業に派遣する日本企業で研修を受けた花氏は2年から3年で正社員になるプランを描いていたが、人材育成会社の社長が亡くなり、自分が考えていたプランを変更せざるを得なくなったという。

 2年でそのIT企業を辞めた花氏は「日本で生活を続けたい」と思って、日本で就職先を見つけようとしたが難しかったという。そこで、2007年6月にイー・ビジネスを2人で設立し、中国の若いIT技術者の派遣を始めた。2008年には20人程度の規模になったが、リーマンショックによって、仕事がどんどん減っていった。「不況時に、どんな対策をするのかなど良い経験をした」と、花氏はこの経験を財産にする。

 その後、景気が回復し、案件が増え始めたところに、東日本大震災が発生し、社員の約9割を占める中国人が一時帰国したり、退職したりした。「大きなダメージを受けた」(花氏)が、中核メンバーは辞めなかった。応援してくれるユーザー企業も少なくなかったという。「約束を守るなど、顧客第一を貫いた」(同氏)ことで、ユーザーとの信頼関係を築いてきたからだろう。社員300人近くなった今も、顧客企業の1社1社と深い関係を構築するため、取引先をそれほど増やしていないという。

 だが、日本市場でIT技術者は不足している。イー・ビジネスは外注を含めて約500人の今の体制を1000人、2000人へと増員を計画する。そのため、年内にも3000人規模の中国ソフト開発会社2社と資本・業務提携を結び、彼らのIT技術者を日本に送り込んでもらう。

日本企業の中国市場開拓を支援するソリューション

 花氏は「安定した収益源になっている派遣ビジネスは下請けではない」と考えている。プロとしてのスキルを提供するからだ。「ユーザー企業がアウトソーシングする際、プロの集団に任せる。そうすれば、プロのスキルを持った競争力のある集団になる。派遣や請け負いは手段であって、どんな価値を創造するかが大事なのだ」と、スキルの高いIT人材をそろえる。

 日本企業と中国IT企業の関係も変わり始めている。1990年代、中国国内に日本向けオフショア開発センターが次々に開設された。日本の3分の1以下という人件費の安さを売りに、案件を獲得してきた。だが、人件費がどんどん上昇し、北京や上海などのIT技術者の給与は、日本のIT技術者を上回ってきた。一方、中国経済が急成長し、中国を市場と見る日本企業や、海外市場開拓を計画する中国先端テクノロジ企業が増えてきた。

 そうした中で、イー・ビジネスは日本企業にどんな価値創造を提供するのか見直しをした。答えの1つが中国のIT技術者らの派遣に加えて、中国先端テクノロジ企業と協業し、日本企業に彼らの商品やサービスを提供すること。日本企業にとっては、イノベーションを起こす素材になる。中国企業にとっては、参入が難しい日本市場への進出を支援する協業相手になる。手始めに、人工知能(AI)やIoT、FinTech、Eコマースなど約10社とパートナー契約を交わした。その1つのMEGVIIの顔認証技術を無人店舗、無人ホテル、モバイル決済の本人認証、犯罪者サーチなどの用途に提案する。

 日本企業の中国市場開拓も支援する。1つは、インバウンドだ。来日する中国人にさまざまなサービスを提供し、店舗などの売り上げ増につなげるもの。例えば、量販店向けに音声解析技術を使った中国語に特化したチャットボットを開発する。中国語を話す店員がいなくても、店内での買い物をスムーズにするシステムだ。来日予定の中国人や来日中の中国人に広告を配信するサービスも提供する。SNSなどから来日に関係するデータを収集し、中国人が求める情報を流す。「中国人と日本人の買い物の仕方は違う。中国人の使いやすいECサイトがある」(花氏)。日本企業に、そんなこともサポートする。

 もちろん、日本企業の中国市場進出も支援する。ただし、工場を建設したり、支店を設けたりするのではない。ショッピングモールでもない。「すぐに越境Eコマースとなるが、システムを構築しても売れるかは分からない」(花氏)という。例えば、SNSやチャットツールなどを使うことを提案する。騰訊(テンセント)のマーケティング、MEGVIIのAIなどを使って、データを収集、分析し、中国の顧客を獲得する方法だ。

 花氏は「ソフト開発は下請けの時代から、共同開発のパートナー関係になる」とし、日中のオープンイノベーションの架け橋になると意気込む。花氏の目からは、日本のソフト開発会社は品質を守り改善するといった製造業の色彩が強い。だが、ユーザー企業はこれだけでは満足しなくなっている。「これからは、課題を解決するアクティブな提案が求められる」と、37歳の花社長は成長への施策を練る。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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