日立製作所とドイツ人工知能研究センター(DFKI)は3月20日、作業者の身体負荷を定量評価し、身体の部位ごとに作業動作の改善点を提示する人工知能(AI)を開発したと発表した。
このAIは、両社が2017年に開発した、眼鏡型デバイスとアームバンド型デバイスからのデータを定量化して「ネジ締め」などの作業内容を認識するAIを発展させたもので、日立の産業向け作業解析技術とDFKIのディープラーニング技術の融合によって実現した。
同AIは、スーツ型のウェアラブルデバイスを活用し、デバイスのセンサが計測した動作データを分析することで、作業時にかかる身体への負荷をリアルタイムに認識、定量化する。また、模範的な作業動作との違いを身体の部位ごとにフィードバックするといった支援を可能にする。
これまで作業中の労働負荷の把握には、固定カメラ映像を利用した方法を取ることが一般的だったが、カメラに写る範囲に計測範囲が限定されるといった課題があり、死角が生じる複雑な生産現場や屋外で安定的かつ定量的に作業負荷を評価することは困難だった。
AIによる作業動作認識と作業者へのフィードバックによる支援の流れ(出典:日立製作所)
模範作業者との動作の違いをリアルタイムに計測し比較・評価するための実験用画面(出典:日立製作所)
身体負荷を定量化する技術は、各部位の状態が組み合わさった動作の計測データをAIにより認識することで、作業で身体にかかる負荷をディープラーニングを用いた時系列データ処理技術により定量化する。人間の主要な動きの識別に必要な30カ所を超える関節部位の動作を、ウェアラブルデバイスのセンサで計測し、身体の各部位の状態認識モデルを個別に機械学習させたAIにより計測データを解析する。
適切な作業姿勢との違いを作業者に提示する技術は、あらかじめ計測した模範作業の動作データと、作業者の動作データを、個別部位ごとに自動比較することで、重要な違いを生んでいる作業箇所と身体部位をAIが特定する。同技術を用いて重量物の持ち上げ動作について実験した結果、作業の身体負荷をリアルタイムに定量評価し、非模範的な動作に対しては腰や膝の動作が模範動作と大きく異なるといった情報の提示が可能なことを確認した。
今後、日立とDFKIは、開発した技術を作業支援や危険行動防止に活用していくとともに、身体の動作を測定し評価するAIとして、将来的にはスポーツ分野・エンターテインメント分野などへの応用も検討していく。