BI(ビジネスインテリジェンス)ツールベンダーのDomoが3月21日まで米国ユタ州で開催した「Domopalooza 2019」では、多数の活用事例が紹介された。その1社であるFidelity Investimentは、4つの事業部門を持ち、5万人の従業員を抱える米国の金融大手だ。
幹部自らがデータを探索
同社でHR Operations&Service Delivery担当責任者を務めるGene Rubenstein氏は、当時抱えていた問題を次のように説明する。「事業部ごとにさまざまなBIツールとデータが存在した。われわれの課題はデータの収集ではなく、どうやって幹部にデータを提供するかだった」
それまでは、データサイエンティストと共同でレポートをまとめ、PDF形式で幹部に配布するという方法を採っていた。これを変えられないかと、ほんの1年前にDomoの採用を決定した。
既存のデータマートやデータストアなどと接続することで、「知りたい情報を全て網羅した。データを見たいという課題が解決された」とRubenstein氏は話す。利用対象者も当初予定していた幹部職15人から、シニアリーダー職約1500人に拡大した。
Rubenstein氏はさらに、Domoを導入する過程において「モバイルファースト」が重要な評価点だったと振り返る。「経営幹部はPCを使わず、スマートフォンやタブレットでデータにアクセスしたいと思っている。その点でDomoは抜きん出ていた」(Rubenstein氏)とし、“モバイルレディ”なツールは多いが、“モバイルファースト”なものは少ないと続けた。
導入から1年がたった現在、Domoが組織変革の入り口になると期待を寄せている。「Domoを使うときは“考え方を変えて”と幹部に伝えている。与えられたものを見るのではなく、幹部自身が何を見るべきかを考えてほしい」とその狙いを語る。会議のスタイルも変わった。巨大なタッチスクリーンを使って参加者全員でデータをドリルダウンしながら議論を進める場面が増えたという。

「何を見るべきかを幹部自身が考えるカルチャーを作りたい」と語るFidelityのRubenstein氏
ローカル事業にも権限を、マーケティングのROI測定で活用
化粧品大手のL'Orealは、マーケティング業務の可視化を目的にDomoを導入した。2010年から進めている企業全体の変革では、デジタル時代のマーケティングとしてソーシャルへの投資などを続けたが、その過程で「投資効果(ROI)はどうなのか?」という疑問が出るようになったという。
一方で、社内には複数のデータレイクが存在し、数種類のETLツールを使い分けるなど、技術スタックは複雑化していた、とL'Orealで最高データ&パフォーマンス責任者を務めるVincent Stuhlen氏は振り返る。同氏にとって、Domoは「単なるBIツールや可視化ツールではなく、完全なるデータプラットフォーム」だった。2017年から使いはじめ、2018年には5000人が利用するようになった。
L'Orealは世界150カ国で事業を展開しており、ブランドの数は36種類にも及ぶ。データ活用に際しては、同社の“非中央集権的カルチャー”を土台に、ガバナンスフレームワークに沿って各地域の担当者も自由にデータを投入できるようにしているという。これにより、例えば、各地域におけるインフルエンサーの投資効果やYouTubeチャネルの閲覧数の推移といったデータを蓄積しておき、最高経営責任者(CEO)が各地を訪問したときに「360度の視点で市場を見渡した(地域責任者との)議論が可能になった」(Stuhlen氏)という。
「事業部として数えると千の単位であるが、われわれは正しい品質とガバナンスを保つことで、全てのデータをDomoに取り込んでいる。これにより、(Domoは)単一のビジネスアプリケーションになっている」
Domoの導入時には、データへのアクセスを民主化するというビジョンがあった。一部の幹部だけがデータを活用するのではなく、全社一体となってデータ主導型ビジネスを実践するための下支えをする技術基盤になっているようだ。
同社は現在、将来を予測してどう対処すべきかを示す予測的・処方的分析のためのアプリ開発に着手しているほか、メディア企業などとのデータ交換プラットフォームとしても活用を考えているとのこと。ECサイトで得られたデータ分析の結果を実店舗に適用する新しい試みも考えているという。

L'OrealのStuhlen氏。Domoには「拡張性など機能面での要求をたくさん出している」と良好な関係も明かした