富士通は3月28日、6月24日付で執行役員常務の時田隆仁氏が代表取締役社長に昇格する人事を発表した。同日に時田氏と現職の田中達也氏が記者会見し、田中氏は「今後の変革を推進する上で、今が体制変更の好機」と説明、時田氏は同社が進めるテクノロジーソリューション事業へのシフトを加速させると表明した。
現代表取締役社長の田中達也氏(左)と新社長に昇格予定の執行役員常務の時田隆仁氏
会見の冒頭で田中氏は、時田氏と併せて執行役員専務の古田秀範氏と安井三也氏が代表取締役副社長に昇格する新体制に移行すると説明。田中氏は取締役会長に、現取締役会長の山本正已氏が取締役シニアアドバイザーに、現代表取締役副社長兼CFO(最高財務責任者)の塚野英博氏が執行役員副会長に就任する予定となる。塚野氏ついては、「変革の仕上げを見守ってもらう」(田中氏)と言及した。
田中氏は、2015年の就任以来取り組んできたテクノロジーソリューションを中核事業とする構造改革で一定の成果を上げることができたと総括。同氏は2018年10月、2020年にテクノロジーソリューション事業で営業利益率10%の達成を目標とする経営方針を表明していたが、「デジタル変革など市場環境が激しく早く変化している現状では、(経営方針の目標の)変革を速めるために、今が新体制へ引き継ぐ最善のタイミング」と述べた。
会見する田中氏
1988年入社の時田氏は、ほぼ一貫して保険や銀行、証券など金融分野で、メインフレームや基幹の勘定系システムの多数の更改プロジェクトを担当。2017年4月からテクノロジーソリューション部門のグローバルデリバリーグループ長として英国ロンドンを拠点に、システム関連サービスやオフショア開発などの事業を担当している。
時田氏は、「メインフレームからUNIXやオープン系への移行、FinTechなどのデジタル変革といったテクノロジの激しい変化と、それを必要とするお客さまのビジネス環境の変化に対応してきた経験を生かし、当社が目指す“サービスオリエンテッドカンパニー”に向けて“質”と“形”の両面でより変化しながら、さらなる成長の推進に努めたい」と表明した。
時田氏について田中氏は、「シビアな金融のプロジェクトを一貫してマネジメントし、ビジョンを持って社員をけん引してきたパワフルな人物」と評する。自身のキャリアでの強みを問われた時田氏は、「プロジェクトでの厳しいトラブルばかりが思い出されるが、社内のさまざまな人材リソースを結集して乗り越えながらダイナミックに変化する様を何度も経験し、鍛えられたこと」と紹介した。
直近で同社は、“サービスオリエンテッドカンパニー”のビジョンに基づく“質”の変化として、グループ全体で5000人規模の営業を中心とする配置転換などの構造改革を進める。田中氏は「人材を適材適所で配置することを目指しているが、まだミスマッチなところも残っている」と状況を説明、今回の人事との関連性では「(施策を進めるための)取り組みはある程度完了しており、(社長交代は)関係ない」とした。時田氏は、「状況をとらえつつ、“形”を変える構造改革は必要ならやっていきたい。(人事施策に)手を付けなければならないことがあるかもしれない。現時点では(新たな施策は)考えていない」と答えた。
新社長への抱負などを表明した時田氏
同社が抱える課題について時田氏は、特に「現場技術者は長年お客さまの要望に応え、失敗がないように努力してきた。しかし、そのために(失敗を恐れて)お客さまへ積極的な提案ができないマインドにある」と話す。現在担当するグローバルデリバリーグループについては、「世界8拠点で1万2000人が担当しているが、市場ごとへの対応などでリソースを生かし切れていない」と課題を挙げ、「グローバルはまだまだハードウェア事業が主体。“サービスオリエンテッドカンパニー”となるべく、早急に“テクノロジーソリューション”へシフトさせなければならない」と語った。
国内でデジタル変革に取り組む企業が増え、システム開発を内製化するなどの動きも現われつつある。時田氏は、「デジタル変革はお客さまの業務課題と密接に関係するため、(適材適所の富士通人材による)支援を推進したい。一方でシステム内製化の動きは、お客さまと(富士通の受託開発の点で)競争関係になる部分が出てくるのは避けられない。それを乗り越え、当社がお客さまに貢献できる部分を捉えていきたい」と話した。