著名なLinux開発者Christopher Hellwig氏は2006年8月、VMwareのベアメタル仮想マシン(VM)ハイパーバイザ「VMware ESX」で、Linuxのソースコードが不正に使用されていることに気づいた。Hellwig氏はSoftware Freedom Conservancyの支援を受けてVMwareを提訴したが、ドイツのハンブルグ高等地方裁判所が本件の上訴を退けたのを受けて、同氏はさらなる上訴には意味がないとして裁判の継続を断念した。
この訴訟で争われたのは、「vSphere VMware ESXi 5.5.0」がLinuxの著作権を侵害したかどうかだった。この問題は、VMwareがLinuxから派生した二次的著作物をGNU General Public License(GPL)の下に公開しなかったことで起こった。VMwareはvmklinuxコンポーネントをGPLの下で公開したが、そのコンポーネントと結びついたハイパーバイザコンポーネントは公開していない。
Hellwig氏の表現では、「VMwareはLinuxカーネルのバージョン2.4を大々的に改変し、巨大なバイナリブロブを追加し、法的に再配布できないLinuxカーネルを派生させた」ということになる。
Hellwig氏とSoftware Freedom Conservancyは、数年に渡ってVMwareの製品からLinuxコードを除去するか、LinuxのGPLv2に準拠した形で製品をオープンソース化するよう同社の説得を続けた。しかしその説得は、功を奏さなかった。
このため、Hellwig氏とSoftware Freedom Conservancyは、2015年にドイツのハンブルグ地方裁判所に対してVMwareを提訴した。Hellwig氏らはその際、「GPLv2に対する全般的な違反に加えて、VMwareがGPLv2の下でライセンスされている著作権のあるLinuxコードと、同社が『VMkernel』と呼んでいるプロプライエタリなコードを組み合わせているにもかかわらず、組み合わされた成果物に対してGPLv2が求めている、対応する完全なソースコードの提供や開示の義務を遂行することなく、その成果物を配布している」と主張した。
それから数年を経た2018年11月、ドイツの裁判所はその訴えを退けた。Hellwig氏は上訴し、戦いを続けた。Software Freedom Conservancyは当時、「地方裁判所は証拠法に基づき、おそらくは該当コードのドキュメントに対する理解の不足から、この件を棄却した」と述べていた。
Hellwig氏は最新の判決について、ハンブルグ高等地方裁判所は「訴状の実質的な問題については扱わず、第一審と同じように、Linuxから流用されたコンポーネントの権利の帰属や著作権保護機能に関する証明が不十分であることを理由として上訴を退けた。裁判所が課した要件は極めて厳しく、個人のフリーソフトウェア開発者が独力で権利を主張することを困難にするものだった」と説明している。
さらにHellwig氏は、裁判所はLinuxコミュニティで著作権トロールのPatrick McHardy氏が起こした事件に影響を受けていると考えている。この事件は、McHardy氏はLinuxのGPLv2に違反しているとして複数の企業を提訴し、賠償金を要求していたというものだ。Linuxカーネル開発者コミュニティは、McHardy氏の主張を激しい調子で否定している。