「働き方改革の取り組みが進むに連れ、この改革は誰にどんなメリットをもたらしているのかについて懸念する声もあらわれ始めました。働き方改革は“働かせ改革”になっているのではないかということです。現場では何が起きているかを把握し、働き方改革を再考する必要があります」
TechRepublic Japanが3月14日に開催したセミナー「働き方はこうやって変える--生産性向上への最適解は徹底的なデジタル化」の特別講演にデロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー 田中公康氏が登壇。「働き方改革を再考する~デジタル活用と意識変革からの生産性向上~」と題して、冒頭のように切り出し、実際に現場では何が起きているか、今後どうしていくべきかをアドバイスした。
生産性が低迷、会社への帰属意識も低下傾向に
政府の後押しのもと、あらゆる業種業態の企業が働き方改革を推進しているが、思うような成果が出なかったり、表面的な取り組みに終始してしまったりするケースは少なくない。田中氏はそんなタイミングだからこそ「“残業するな”と言っても意味はありません。掛け声だけでなくちゃんとやることをやる。そのためにはデジタル活用と意識変革が重要です」と訴える。
田中氏はデロイトの「デジタル人事」領域のリーダーとして、生産性・エンゲージメント向上に向けた働き方改革、デジタル活用によるイノベーション創出に向けた組織・人材マネジメント変革などのプロジェクトを手がける。直近では、HRテック領域に関する新規サービス開発にも従事する。
デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー 田中公康氏
田中氏はまず、働き方改革の背景には社会経済の大きな変化の潮流があると指摘し、2060年までに年平均70万人が減少し続けていくという「人口問題」、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で中位以下に停滞し続けている「生産性の低迷」、3〜5年後にロボティクスや人工知能(AI)が当たり前に利用されるといわれる「デジタル化」、ミレニアル世代に代表される「価値観の変化」という4つのトレンドを紹介した。
「われわれの調査では、2020年までに離職が予想されるミレニアル世代は3人に1人です。5年以上勤めようと考えている回答者も年々減っていて会社への帰属意識は低下傾向にあります。グローバルと比較して大きな差がなくなっています」と、働き方と価値観が大きく変わっているとした。
“成果を実感している企業は3割”の理由
こうしたなか、企業が実施する働き方改革の取り組みの目的も、生産性と従業員の「働きがい(心身の健康・満足度)」にフォーカスが集まる傾向がある。デロイトの調査「働き方改革の実態調査2017〜Future of Workを見据えて」によると、取り組み目的のトップ3は「生産性の向上」(87%)、「従業員の心身の健康の向上」(76%)、「従業員満足度の向上」(74%)だった。
「従業員のことを思った取り組みになるのは評価すべきことですが、その一方で、効果を実感している企業は3割程度にとどまるという現状があります。なぜこうしたギャップが生まれるのか。いくつかの取り組みのステップがあるときに、最初のステップで足踏みしてしまっている現状があると考えています」